特集

さぬき映画祭2023「ぐるり1200キロ、はじまりの旅」香西志帆監督&昆夏美さんインタビュー

  • 23

  •  

さぬき映画祭2023「ぐるり1200キロ、はじまりの旅」

香西志帆監督&昆夏美さんインタビュー

 

 2020年に制作、「さぬき映画祭」で上映された映画「ぐるり1200キロ、はじまりの旅」。

 旅行雑誌編集者のヒロインがあることをきっかけに、歩き遍路で香川を巡るという物語。

 さぬき映画祭でシナリオコンクール大賞を受賞した「結願~まひるの遍路旅(作:河野輝夫)」を原作とし、香川県で銀行に勤める傍ら映画監督としても活動する香西志帆さんがメガホンを取り、ヒロイン・伊藤まひるをミュージカル俳優や歌手として活動する昆(こん)夏美さんが演じた。

 2月5日の「さぬき映画祭2023」で再び上映され、香西監督と昆さんがトークショーに登壇した。この記事ではトークショー後に行ったインタビューにトークショーの内容も織り交ぜて、撮影のエピソードや映画祭のステージを終えての感想、今後の展望などを聞く。

 

香西志帆(右)
 1976(昭和51)年生まれ。高松市出身。百十四銀行に就職後、2006(平成18)年、30歳のときに、「今から始められる夢」として脚本家を志し、中島貞夫監督から脚本を学び始める。2008(平成20)年、「UDON禁止令」で監督デビュー。その後、ことでん路線開通百周年記念映画「猫と電車」(2012年)で脚本・監督を務めたほか、監督を務めた映像作品「盆栽たいそう」が2016(平成28)年、フランスのジャパンエキスポで公開されるなど、国内外問わず活動し香川の魅力を発信し続ける。製作した作品数は140以上。

 

昆夏美(左)
 1991(平成3)年生まれ。東京都出身。大学2年時の2011(平成23)年に東宝芸能のオーディションを受けて合格すると、事務所に入って1カ月たたないうちにミュージカル「ロミオ&ジュリエット」のヒロインオーディションで多くの候補者の中からジュリエット役を射止め、メジャー作品プロデビュー。その後、「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役、「ミス・サイゴン」キム役など数々の話題作に出演し、高い歌唱力から「ミュージカル界の新世代の歌姫」として注目を集める。声優としても活動し、2017(平成28)年にはディズニーによる実写版「美女と野獣」のヒロイン・ベルの吹き替えも務めた。実写映画の主演・出演は本作が初。

 

作品ができるまで

和やかな雰囲気で進められたトークショー

-この作品は「さぬき映画祭2019」でシナリオコンクール大賞を受賞した「結願~まひるの遍路旅(作:河野輝夫)」が原作ですが、香西監督がメガホンを取るきっかけは?

香西監督(以下 香西):原作者の河野さんとは、さぬき映画祭映像塾「映画制作実践講座」で同期で、作品の撮影を手伝ったこともあります。この作品は、河野さんが県庁でお遍路さんのPRをされていた時に書かれたものですが、当初から「ぜひ香西さんに撮ってほしい」と声をかけていただいていました。映画化について、仏生山温泉のロビーで話し合ったこともあります。ただその直後、私が妊娠していることが分かりまして…。四国を回るこの話は妊娠中の身には無理かもしれない、私は会社員でもあるので四国を回る時間も予算も確保するのが難しいと何度もお断りしました。その度に、中島貞夫監督から「やりなさい」と激励され、メガホンを取ることにしました。

-続いて昆さんに伺いますが、「さぬき映画祭」のことは以前からご存知だったのでしょうか。ヒロインに決まった経緯も教えてください。

昆さん(以下 昆):正直なところ、この映画祭のことは香西監督からオファーを頂いて初めて知りました。舞台の地方公演で全国各地を回るのですが、香川県には、それまで訪れたことがありませんでした。

香西:ヒロインを誰にするか考えているときに、大阪で上演されていたミュージカル「レ・ミゼラブル」を鑑賞しました。そこでステージに立つ昆さんの姿と演技の素晴らしさに「この作品のヒロインにぴったりでは」「昆さんと一緒なら乗り越えられる」と思いました。昆さんのマネジャーとは面識もありましたので、公演後楽屋に伺って「ぜひ出てほしい」とラブコールを送り、出演していただけることになりました。

 河野さんの了承を得た上で脚本も変えました。昆さんに合わせて、ヒロイン・まひるの母親(昆さんによる二役)を出し、ミュージカル女優を目指す女性だったという設定を加えました。原作でヒロインは四国を一周するのですが、お遍路には88カ所をさまざまな区切り方で分けて回る「区切り打ち」というものがあり、その中に一県ごとに分けて回る「一国参り」というものもあります。作中で回るのは香川県の一国参りにし、母親が過去に四国88カ所全てを回ったという設定にしました。

-昆さんは今回が初の映画出演ですが、舞台との違いは感じましたか?

昆:舞台も映像も芝居というところでは同じですが、実際にやってみると全然違いました。例えば名前を呼ばれて振り向くシーンがあるとして、舞台では観客に伝わるように大きな動きで振り向くのですが、映像作品で同じようにすると大層なものが来たかのような、オーバーリアクションに取られてしまいます。撮影初日までに舞台と映像との演じ方の違いを意識しながら準備しました。

 それから舞台はステージが場面の全てですが、映像作品ではシーンごとに分けて撮りますし、主人公の知らないところで並行するシーンもあります。完成した作品で自分の関わっていないシーンがあり、それを見るのも新鮮でした。舞台と違って映像作品はBGMが後から付くので、撮影のときとは全く違うものになっていたことにも驚きました。

-お遍路にはさまざまな決まり事があります。この作品でも寺を回る中でさまざまな作法や文化が出てきますが、どのように勉強してきましたか?

昆:これまで「お遍路」という言葉は知っていたのですが、詳細は知りませんでした。撮影中にレクチャーしていただくとともに、作中でヒロイン・まひるが訪れた先で教わるシーンでは、演技をしつつ、私も「なるほど、そうなんだ」と思って聞いていた部分もあります。

香西:ヒロインのまひるは四国遍路についてあまり知らない役なので、事前に説明しすぎると演技が不自然になってしまうと思いました。そこで、撮影の中でまひると共に学んでもらおうと思い、詳しく教えすぎないようにしました。

-撮影の中で大変だったことはありますか?

香西:時間がとにかくなかったことですね。昆さんは出演公演も数年先まで決まっていて、公演以外に毎日のように稽古もあるので、撮影のために取れる日程は3泊4日だけでした。

-3泊4日で香川のシーンを全て撮影したのですか?

香西:だいぶ、いろいろなところを効率化しました(笑)

昆:私が映画出演初ということもあり、映画撮影のスケジュール感がどんなものか知らなかったので、とにかく「はい!撮ります!」と返事しました。私、意外と体育会系なんです(笑)

 撮影に臨む香西監督は「1人でいくつ仕事をされるんだろう」「この小さな体のどこにこんなエネルギーがあるんだろう」と思うくらいエネルギッシュな方でした。香西監督の周りにはいつも「香西組」とでも呼ぶべき方々がたくさんいらっしゃって、監督のお人柄や笑顔、そして撮影に向かう情熱に魅せられて、チーム一丸となって取り組まれていました。その姿に、「映画って、こうやってできるんだ」というのを感じました。

香西:その時、私は妊娠8カ月でしたが、これまで通り「自分で何でもやるぞ」と思っていました。でも周りの方が何かと気を遣ってくれて、三脚を運んでいたら「持ちます」と言ってくださったり、撮影の合間で小走りしたら声をかけてくださったり、皆さんには何かと心配をかけました。出演者の山中聡(そう)さんも、いつも気遣ってくださいましたね。

-昆さんにお聞きしたいのですが、今回演じたヒロイン・まひると自身との共通点として感じることはありますか?

昆:今回、まひるは母親の過去をたどるように歩き遍路に出ますが、母親のルーツを知りたいという思いは大きな原動力になると思うし、大変共感できました。まひるの母親は作中ではすでに亡くなっていますが、終盤で母親の姿を知るシーンがあって、それを見て「まひるちゃん、報われたね。良かったね」という思いが湧いてきました。

 今回撮影で香川の一部を回っただけですが、それでもかなり体力が必要で、「お遍路って大変なエネルギーがいる」と感じました。88カ所を回る方は、かなえたいと強く思う願いがあって、固い決意を持って回るんだと実感しました。

 

自身が歌う主題歌「WALK」について

-冒頭で主題歌「WALK」のステージがありましたが、素晴らしかったです。

ステージ上で「WALK」を歌い上げる昆さん

昆:ありがとうございます。アップテンポの曲でリズムも刻まれてて、歩く歩幅を感じるというか、歩いているような気分になる曲だと思っていました。

香西:実はそうなんです。初めの「ズンズンズン」というのも歩くリズムを意識していて、歩くことをテーマにした曲にしています。

昆:そうだったんですね。明るい曲調が映画のハッピーエンドとも合っていて良いなと思いました。

 

映画祭を終えて・今後の意気込み

-映画祭のゲストトークを終えて、今の心境をお聞かせください。

昆:2020年のさぬき映画祭でもこの作品が上映されて、香西監督はじめ出演者の方々も登壇されたのですが、私はスケジュールが合わなくてどうしても出られなかったのが心残りでした。今回、2年越しに出られてうれしいです。

 舞台作品は見返す機会があまりなく、「舞台は過ぎ去っていくもの」と考えているのですが、今回自分のシーンを見返すことができるというのは不思議な感覚がしました。「この部分こうした方が良かったな」と思うところもありますが、皆さんと作品を見て同じ時間を共有できたことに感謝したいです。

 今回、主題歌「WALK」を公の場で初披露しましたが、映画のエンディングで流れた直後に披露して、良い雰囲気の中で歌えました。客席で歌に合わせて体を揺らしてくださっている方がいて、うれしかったです。

 私は東京で生まれて東京で暮らしていますが、今回、香川にはこんなすてきな文化が残っているんだと思わされました。御朱印帳が若者の間でブームになっているように、お遍路もライトな楽しみ方、若い方にも楽しんでいただける可能性を秘めていると思います。この作品が、より多くの方にとってお遍路に触れるきっかけの一つになれば幸いです。

香西:2年前からさぬき映画祭のステージに昆さんと一緒に立つことが一つの夢になっていました。今回それが実現して、記念すべき映画祭になりました。

 前回この映画祭で上映したときは編集が間に合っていなかった部分もあったのですが、今回、映画「おくりびと」(2008)編集の川村章正さんや作家・佐々木良さんのアドバイスを元に、冒頭のシーンを編集したり、子役の場面を追加撮影したりするなど感謝の意味も込めて再編集したものをお届けしました。多くの方に見ていただいてありがたいです。

-最後に、今後の展望や意気込みをお聞かせください。

香西:「ぐるり1200キロ、はじまりの旅」は昨年9月の「あいち国際女性映画祭」に出品するとともに、昨年11月に開催された賢島映画祭ではグランプリを受賞しました。

関連記事:伊勢志摩経済新聞「志摩市賢島で『賢島映画祭』 グランプリは『ぐるり1200キロ、はじまりの旅』」 https://iseshima.keizai.biz/headline/3824/

今後も国内外さまざまなところに出品していきたいです。

 それと今月、香川を舞台にした中国向けのネットドラマを納品予定です。今後も国内はもちろん、海外にも進出して香川県の魅力を発信し続けたいです。

昆:この作品が映画初出演・初主演作品となりました。舞台が主で、これまでも数回テレビドラマに出演したことはあるのですが、映画はまた違ったものでした。映像作品に対し、戸惑いや苦手意識もありましたが、今回体験することで「興味」に変わりました。このような貴重なチャレンジの機会をくださった香西監督には感謝しています。役者としてはまだまだひよっこですが、これを第一歩として映像作品でも頑張っていきたいです。

 直近では3月に、ミュージカル「マチルダ」の公演が始まる予定です。2010(平成22)年にイギリスで生まれ、世界中で上演される作品が日本で初上演されます。プレッシャーもありますが、精いっぱい演じていきたいです。

 

-ありがとうございました。

 

 

編集後記

 作品はお遍路が初めて回るヒロインの目線から描かれていて、一緒にお遍路を回っているような気分になれる作品。作中でお遍路や「お接待」などの風習についての説明もあり、香川に住んでいても、まだまだお遍路について知らないことがあると思わされました。この作品が、これから多くの場所で上映され、国内外多くの人がお遍路や香川に興味を持つきっかけになればいいと思いました。

 トークショーやインタビュー中も終始笑顔で、互いに褒め合っていた香西監督と昆さん。互いへの信頼感とリスペクトを感じました。お二人による作品もまた見たいと思いました。今後のご活躍にも期待しています。

  • はてなブックマークに追加
エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース