茨城県真壁町、愛知県岡崎市とともに「日本の三大石材産地」と呼ばれる庵治(あじ)町・牟礼(むれ)町。産出する花崗岩「庵治石」は見た目の美しさ、丈夫さから、建材や墓石として長く重宝されるとともに世界的な彫刻家であるイサム・ノグチや流政之(ながれ・まさゆき)をはじめとする多くの芸術家を引きつけました。しかし、近年安価な外国産石材が流入したことなどにより、国産石材の需要は激減。産地の石材関連事業者の数も最盛期に比べると激減しています。
「このままではいけない」ー庵治石の新たな可能性を模索し、世界に向けたものづくりを続けているのが「二宮石材」(高松市牟礼町)の二宮力社長です。
2021 年 3 月、「蒼島(あおいしま)」を設立。「暮らしに寄り添う庵治石プロダクト」をコンセプトにした「AJI PROJECT」をけん引しています。石材加工の時に出た端材や墓石や建築材料に必要な大きさを取れない庵治石を素材として、ブックスタンドを始めとするプロダクトをプロダクトデザイナーや産地の職人たちの協力で製造・販売しています。同ブランド以外でも、アニメや海外のデザイナー、アーティストなど、これまで庵治石とは縁遠いと思われていたジャンルとも積極的にコラボしてきました。
二宮社長に庵治石や庵治・牟礼のこれまでとこれからについて、話を聞きました。
こま犬や墓石、建築素材における高級石材としてこれまで使われてきた庵治石。それ以外の新たな形、もっと身近な場所で庵治石を知ってもらう入り口として自社ブランド「AJI PROJECT」を展開しています。ブックエンドをはじめとする自社商品を作るとともに、国内外のアパレルブランドやジュエリーブランド、海外のアーティストともコラボ展開を予定しています。
ジュエリーブランド「EYE FUNNY(アイファニー)」によるプロジェクト「EYE FUNNY OBJECTS」では庵治石を使った家具やオブジェを多く発表しています。
今後も、AJI PROJECTを含めたさまざまな事業で、国内外のアパレルブランドやジュエリーブランド、海外のアーティストともコラボ展開を予定しています。
「花崗岩のダイヤモンド」の別名を持つ庵治石は、硬度が高く、さらに細かな結晶の結びつきが強いため、他の石ではまねできないような繊細な細工を施すことができます。細かな結晶が織り成す美しさと、雨風にさらされても経年劣化しづらい強さで、墓石をはじめ多くの著名な建築物などにも使われてきた石材でもあります。
「サビ石」と呼ばれる、鉄分を多く含んだ茶系色の庵治石もあります。色目が茶系のさび色であることからそう呼ばれ、時間がたつとなお一層、風合いが増し自然肌の美しさを感じられます。このさび石は古くから庭園用として使われていましたが、当社ではブックスタンドとして商品を展開しています。
火成岩(マグマが冷え固まってできた岩石)である花崗岩庵治石は、マグマが冷えて岩石となり、それが隆起し山になるまでの過程で収縮するため、東西南北に亀裂が入っています。
墓石の場合その亀裂を避けながらの作業になるため、製品となるのは採石された原石の5%~10%ほどです。残る9割以上の石は建材や修景材、護岸や漁礁などに使うなど、古くから無駄を生まない工夫がされてきました。蒼島もまた、その墓石として使われなかった90%~95%の原石を使って商品を展開しています。
端材となった時点でそのストーリーが終わるはずだったものにも、デザインの力によって、皆さまの元で新たなストーリーを紡ぎ出す可能性が生まれます。「墓石とは違う産地に眠る新たな可能性で庵治石や石職人の魅力を発信したい」ーその思いから当社を設立しました。
庵治・牟礼のこれからについて
前述の通り、庵治石が眠る岩盤には亀裂が多く入っているため、採石を行う職人はその亀裂を読み、かつ採石時の発破によってできるだけ大きな塊を壊さないように石を取る技術が必要です。採石場によって採れる石も取る方法も異なります。庵治石は硬いため加工も難しく、取った石を切削したり、彫刻を施したり、磨いたりといった作業にも高い技術が必要となります。
そのため、この産地では古くから分業制が採用されています。各工程に特化した高い専門的技術を持つ職人たちが庵治・牟礼の2つの町に集まり、このエリア全体が一つの工場のように稼働しています。当社の商品どれ一つたりとも、誰か一人の手だけで作り上げることはできません。庵治・牟礼のこれからのためにも、この技術力を維持し、さらに進化させていくための後継者の育成が欠かせません。
需要減や外国材の流入、採石や加工を行うための経費の高騰などにより、人を雇い入れることが難しい事業者も少なくない状況ですが、過去を振り返ると、先見性に富んだトップの招聘(しょうへい)に応じ、庵治石に引かれてイサム・ノグチや流政之ら世界的な彫刻家が、この地に移り住みました。その結果、今も「イサム・ノグチ庭園美術館」には国内だけでなく、海外からも多くの観光客が訪れています。
私は庵治石は「世界に通じる石」だと考えています。庵治石の新たな形の成功事例を作り、一人でも多くの人に庵治石や職人のこと、この産地の事を知ってもらい、石工という職業が若い人にとって憧れとなるように。10 年後、20 年後の庵治石の道筋を作るべく、私たちは活動しています。
編集後記
高松の各所で見る機会も増えた庵治石の雑貨を制作する「蒼島」と「AJI PROJECT」。デザイナーとのコラボ作品は個性にあふれていて、「これが石でできているのですか?」と思わず聞いてしまいました。今回の取材では庵治石の産地の現状も聞けました。後継者不足、海外産石材の流入などにより庵治石は今、厳しい状態に置かれています。それでも、石の美しさ、江戸時代から受け継がれてきた高い技術を実際に見聞きして「これからも庵治石を残していきたい」という思いに駆られました。
さまざまな展開を見せる「AJI PROJECT」に、今後も注視していきます。