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【高松を元気にする100人 VOL.1】馬場加奈子さん【ビジネスのヒントは「主婦あるある」にあり】

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高松を元気にする100人 VOL.1 「さくらや」創業者 馬場加奈子さん

 香川県高松市出身の起業家として注目を集める一人の女性がいる。幼稚園から高校まで幅広い世代の制服リユース事業を全国展開するサンクラッド「さくらや」社長、馬場加奈子さんがその人だ。

 「短時間営業」「子ども優先」など従来のサービス業では考えられなかったビジネススタイルを打ち出し、女性の社会進出体現者としてテレビ、新聞、ウェブなど、さまざまなメディアで取り上げられている。

 香川県内では高松信用金庫で高松女性起業応援塾「キャリスタ」講師や東京2020の聖火ランナーを務めた馬場さんの起業から現在までの道のりを聞いた。

高松市出身の起業家、馬場加奈子さん

1.起業までの道のり

ー起業のきっかけをお聞かせください。

 私には成人した長女を筆頭に大学生、高校生の子どもがいます。長女は障がいをもって生まれてきたので、いつかは起業して時間に融通が利くようなスタイルで働けたらなと思っていました。

 その後、末っ子の出産前にシングルマザーになりましたが、末っ子を希望する保育園に入園させられませんでした。生後間もない末っ子をベビーカーで連れてできる仕事はビラ配りのバイトぐらい。といっても月収5,000円くらいしか稼げない。当時は光熱費や家賃すら払えず、電気を止められ大家さんに叱られ…とまさに貧困にあえいでいました。

ーそれは大変でしたね…。

 この生活のおかげで本気で起業を志すようになりました。手始めに、生活費と起業資金を稼ぐために保険の外交員として復職。法人営業部門だったので「地域の経営者層と知り合え、ビジネスの勉強にもなるはず」という狙いもありました。

 朝から晩までの通常勤務後、残業も夜遅くにお客さまに呼び出され出向くこともあり、子どもと過ごす時間を犠牲にしました。数年後、長女の養護学校入学を機に保険会社を辞めて、起業のために経理の勉強を始めました。私が家にいる時間が長くなると、3人の子どもたちが一斉によくしゃべる。

ーお母さんに聞いてもらいたい話がたくさんあったんですね。

 「子どもはお母さんに話を聞いてほしいものなんだ」と実感しましたね。この頃からさくらやが軌道にのるまで一切ぜいたくできない生活でしたが、我が家にとって一番いい時代だったと思います。誕生日の夕飯がお茶漬けとケーキだったり、水道光熱費節約のために小さい湯船に4人で浸かったり…今思えばびっくりするような生活ですが、本当に幸せでした。

 同時に「こんな風に子どもと過ごせる時間はあとどのくらい残されているんだろう」と考えるようになり、「子どもとの時間を最優先にできるビジネスを立ち上げよう」と心に誓いました。

2.起業から全国展開へ

ー子どもとの時間を最優先にするために今のビジネススタイルを思い付いたということですか?

 親、特に母親が働く場合、子どもの健康・時間・学校行事などを大事にできないと後ろめたい気持ちを抱えることになる。そうしないために「効率的なビジネスをする」と、制服のリユースを思いつく前に決めていました。

2011年に開業した「さくらや」1号店

ー制服のリユース業は、どのような経緯で思い付いたんですか? 

 それまでを振り返って一番つらかった出来事は、子どもの成長で制服の買い替えが必要になったときのこと。当時、どれだけ探しても制服の中古は見当たらず頭を抱えました。しかも、子どもの成長を心から喜べない自分にショックを受け、ずっと心に引っ掛かっていて。「同じような家庭は少なくないだろう」と思いを巡らせました。

 制服は公立小学校でも上下で数万円。衣替え用の制服や体操服・ランドセルなどの通学用品も合わせると、かなりの負担です。しかも中学、高校と進学の度に制服を用意しないといけない。私立高校の制服なんてびっくりするほど高価ですよ。毎日使うものなので汚したり破れたりして成長や進学以外にも替えが必要になることも。

 制服は卒業したりサイズアウトしたりすれば要らなくなるのに、人にあげたり頭を下げて頂いたりもしづらいんです。私のようにシングルペアレントや経済的にハンデのある家庭では一日中働いている保護者も多く、ママ友や地域のつながりがない人もいます。なのに制服は中古服市場に出回りにくい。

 そこで制服が不要な人と必要な人をつなげようと思いました。「お母さんが外出しやすい時間帯に絞って短時間営業できそう」というのもこのビジネスを選んだ理由です。

ー自分・客・社会に意義のある、まさに「三方良し」のビジネスモデルですよね。

 それがね、このビジネス構想を話したとき周囲の経営者からの反応は散々で…。「商売にならない」「その時間に頑張って来店しようとするほど中古制服のニーズはあるのか」と口々に反対されました。賛同者や支援者が少ない中、開業当初は集客できず金銭面でも大変でしたね。ブログを毎日何度もアップし、チラシを刷り、子どもと何百枚も配りました。

さくらやホームページ

ー時代もありますかね。数年前だとそういう反応だったのもわかる気がします。

 そうですね。でも、その頃よく見られた「長時間店を開けてお客さんが来れる時間に来てもらう」従来のサービス業形態には疑問があったんです。それにお母さんって「いつでも行ける」だと生活に追われて「なかなか行けない」こともあります。営業時間と必要な商品が限られるからこそ、お母さんたちは時間をやりくりして来店し、短時間で買い物を終えて帰ることができるんですよ。

 お客さまから育児や生活のことで相談を受けたり、ワーキングマザーにはアポを取って通常営業時間後、夕食を済ませて店に戻ったりといったこともありました。そうするとお金を頂いているのに、お客さまから本気の「ありがとう」を頂ける。「感謝が循環している。間違っていない」と強く確信しましたね。こんな日々を繰り返しているうちに口コミで新しいお客さまが増えました。

 また、ある日私の子が自然にお客さまのお子さまの相手をする様子を目にしたんです。それまでは、お客さまのお子さまが私の子の相手をしてくれる状況だったのに、同じことを我が子が自然と行い、お客さまのお子さんも満足げな笑顔で帰っていく。「さくらやは子どもの成長にもつながっている」とビジネスを続ける力になりました。

ー予期せぬうれしい効果があったんですね。

 そうなんです。加えて、リユース用に回収した制服の洗濯や刺しゅうの糸取りを地域の障がい者団体や高齢者に仕事として依頼するようになり「制服が必要な家庭だけでなく地域の人々にとって、ウィンウィンの関係が広がっていく」と実感しました。

刺しゅう取りを手伝う地域の人と。こうしたつながりが「ウィンウィンの関係」を生み出してきた

ー中古制服の販売業という枠組みを超えたということですよね。

 高松店は「子どもの夏休みの自由研究に困っている」「こんなビジネスがしたい」などのお客さまの希望に対し、店内の空いているスペースを使い、ワークショップを開いたり、手作りの家具や手芸品を販売したりと、制服のリユース業だけでなく地域の人々を応援し、つなげる場にもなりました。

 こうして人やビジネスがつながって、始めは興味を示してくれなかった地域の経営者層からも認められるようになったんです。

ーそれで全国展開につながったんですね。

 お客さまの口コミやメディアに取り上げてもらったのがきっかけで「一緒に働きたい」「自分の町にもさくらやがあったらきっと喜ばれる」と、さまざまな地域から声が上がり、直営店やパートナー店の出店が増えました。企業や取引先信用金庫が制服の寄付ボックスの設置に協力してくれるようにもなりました。

 こうして回収する制服と出荷する店舗が増えると、仕分けのためにPOSシステム導入が必須だなと。それでシステム導入資金を賞金で補おうと、かがわ産業支援財団の「かがわビジネスモデル・チャレンジコンペ」に応募して優勝したんです。その後も、2014(平成26)年に日本商工会議所が開催する女性起業家大賞スタートアップ部門など全国規模の大きな賞を数々頂いて、一層多数のメディアに取り上げられるようになりました。

3.さくらやのビジネス形態

ーパートナー店舗とは、フランチャイズのことでしょうか?

 誤解されがちなんですけど、個人の背景を無視するようなルールやノルマを設けたくないからフランチャイズ化はしていないんですよ。

 現在(2021年10月15日)総数75店舗にもなった全国の「さくらや」は、直営店かパートナー契約店なんです。パートナー契約とは個人事業主のオーナーとして出店してもらい「さくらや運営に当たり手取り足取り協力します」といった契約です。契約金として170万円、月々売り上げや規模によって3,500円~9,500円の会費がかかります。

 「さくらや」ブランドや在庫、ビジネススタイルを存分に利用してもらい、研修も行います。スタート前からビジネスが軌道に乗るまでは当たり前で、運営していく中で生まれる疑問や悩みを会社の代表としてだけでなく、仲間として一緒に解決したいと常々考えています。

さくらやパートナーシップ概要(さくらやホームページより)

ーパートナー店のオーナーは希望すれば誰でもなれるものなのですか?

 直営店のスタッフやパートナー店オーナーには、契約前にその人の背景や「なぜさくらやをやりたいのか」をしっかりヒアリングします。私の苦労話もたっぷり聞いてもらったうえで、「何があっても事業継続を諦めない」覚悟を決められた人とだけ契約しています。

ー店舗やスタッフが増えていくなかで気を付けていることはありますか? 

 「売り上げより子ども最優先」を全てのスタッフに徹底させています。具体的には、店によってバラつきはありますが、10時~15時程度の短時間営業。子どもと自分の体調優先。学校行事・イベントなど家庭の用事「絶対」優先など。

ー多くのお母さんが馬場さんのような経営者の下なら働きやすいと思います。こうした熱意や気遣いが成功につながったんですね。 

 いやいや、私個人は成功したと思っていません。ビジネス自体、内容も営業時間も働く人もターゲットを絞ったスモールビジネスですから。ただ、子どもと本人第一のビジネススタイルを貫くと、スタッフが率先して回収ボックス設置の交渉や営業に行ってくれるようになったんです。まさに『人財』が自然と育つ。

 私自身は講演や事業で全国を駆け回る生活なので、こうしたパフォーマンス・モチベーションが特別高いスタッフに各店の研修や相談に応じてもらうことも増えてきました。「サスティナブルリーダー」として重用し、もちろん金銭面でも反映させています。

 短時間のスモールビジネスだからこそ、スタッフを雇えるようになった当初から直営店では大都市と地域格差がない時給を支払ってきました。こうして短時間営業していると休憩中もお母さんたちって仕事のことを考えてくれるものなんですよ。なので休憩中も賃金が発生しています。

 やはり、お給料ってスタッフ個人の生活の基盤にもなるし、幸せ・やる気や成長につながるんですよね。

4.さくらや本部の東京進出

ーそれが事業拡大の秘訣(ひけつ)になっているのでしょうか?

 私個人は「ビジネスを大きくしたい」というよりは、貧困問題や子育て支援などで多くの人の力になりたいんです。「いろんなことや人をつなげたい」という気持ちが大きい。

 そのためにも日本の中心である東京進出は5~6年前から掲げてきた目標でした。まず、池袋・調布・文京区内に「さくらや」をオープンし、2年ほど前に家族で上京しました。

 何度も店舗兼事務所の移転を繰り返しながら人脈や店舗数を増やしてきたんですが、コロナウイルスの感染拡大により、子どもの学校はオンライン授業や休校になり…さくらやも休業せざるを得ない日々が続き、高松に帰っていたこともあります。

ー日本全体が落ち込んでいるような雰囲気でしたよね。

 プチ鬱(うつ)になりましたよ。こうした状況でも「さくらや高松店」に顔を出しつつ、高松信用金庫で高松女性起業応援塾「キャリスタ」講師を続けました。

 ただし、高松にいると、東京の情報と言えばコロナ関連のことばかりでビジネス情報が入ってきづらくなるんです。それと、キャリスタ受講生の熱意に触れ、高松の起業希望者をサポートしたい気持ちも生まれました。それで家族で東京に戻りました。

 その後、知り合いのつてをたどって表参道や自由が丘などで「さくらや間借り」営業を始めるんですが、こうした活動がメディアに取り上げられるようになり、ブランディングにもつながったんです。

東京の自由が丘駅で(馬場さんのブログより)

 現在はご縁があって渋谷の国連大学の近くに「さくらや本部事務所兼さくらや東京店」を出店し、本当の意味での東京進出となりました。アンテナを張り、つながりを大切にし続けることで次のチャンスにつながったと思います。 

ーさくらや東京店の役割について教えてください。 

 渋谷のさくらや東京店では制服のリユースだけでなく「zatta246」と名した地方在住の作り手の作品を売るギャラリースペースを設けています。今、多くの起業家や作家、そこを目指す学生が「モノを売る」ことばかりを考えています。本当に大事なのは「価値を売る」こと。それを実感してほしいんです。

 具体的には、zatta246に商品を陳列することで地方在住の小さな企業や作家でも「取り扱い店が渋谷にある」とPRに利用してほしい。あえて高校生や大学生を販売員や広報としてインターンシップ採用し、モノと価値を売り「ありがとう」が飛び交うビジネスの仕組みを学べるスペースにもしたいと考えています。

 また、さくらや東京店は子育て中の保護者が気軽に悩みを話に来れる拠点にもしたいです。親世代も困ったことがあったら相談したりガス抜きできたりする環境を作ることが必要だと感じています。

 制服のリユース業からは、ずれた展望に聞こえるかもしれませんね。このご時世で集客が難しい東京近郊のパートナー店が東京店で間借りのような形でリユース制服の販売もしています。

4.さくらやと馬場さんが思い描く未来

ー盛りだくさんですね。さくらやの「これから」にはどのような展望があるのでしょうか?

 実は、元々は障がいを持つ人が活躍したり楽しんだりできる施設を作るのが夢なんです。でも、起業前は福祉の経験や資格がない私に出資してくれる企業なんかない。「まずは信用を勝ち取るため」と苦しいときも歯を食いしばって、さくらやを続けてきました。それが、現在は回収品のクリーニングで障がい者の方に活躍していただき、当初の目標に近いことができるようになりました。

 制服のリユースに話は戻りますが、内閣府・文部科学省・厚生労働省・WAM共同プロジェクト「夢を貧困につぶさせない『子供の未来応援国民運動』」の一環で学生服未来応援「ツナグ回収ボックス」設置活動を行っています。

 ただし回収品でそのままリユース販売できるのはたった2割なんです。残り8割の廃棄処分行きの制服を原料に、日本環境設計とコラボしてリサイクルTシャツを売り出す新規プロジェクトが進行中です。

 今までの活動でSDGsの(1)貧困をなくそう、(8)働きがいも経済成長も、(12)つくる責任使う責任、などを実践してきたと思います。リサイクルTシャツプロジェクトで製造にも携わることで、もっと多角的な視点から信用を得られるのではないかと考えています。その先に本来の夢、障がい者施設を作る目標が達成できるんじゃないかと思っています。

5.高松経済新聞と読者へ

ー最後になりますが、高松経済新聞はスタートしたばかりのメディアです。今後高松市全体や高松で頑張っている人を盛り上げていけるようなメディアになりたいと考えています。我々や読者へコンパスとなるような一言を頂けますでしょうか?

 さくらやは、口コミでお客さまやビジネスが広がると、メディアが取り上げて宣伝してくれました。さくらやの成長はまさにメディアのおかげです。起業したからこそ、メディアは「まだ」信用がない起業家たちを成長させる役割を果たしてくれると知りました。それが今、ビジネス拡大はもちろん、さまざまなご縁や幸せにつながっています。高松経済新聞さんには起業家をたくさん育ててほしいです。

 これから「高松で何か始めたい」「高松を盛り上げたい」という人には、ぜひ自分の身近でできることがないか「よく考え、まず始める」ことがおすすめです。私のビジネスは、自分が経験した困りごとと子どもと一緒にいたいという願いから生まれたものでした。そして「とにかくやってみた」ことが今日につながっています。

 「商品がない」とお客さまに相談するとお客様が知り合いに声をかけてくれたり、取引先のデザイン会社コピーマック(高松市東ハゼ町)社長に取引内容と関係ないことで「困っている」と打ち明けると私のために経営者層を集めて皆の意見を聞いてアドバイスしてくれたりといったこともありました。 

 かっこつけず、素直に、そして自分の身の回りにあるつながりを大切にしていると、良いアイディアがうかんだり「利他の精神」から助けてくれる人が現れたりするものです。恐れずにチャレンジしていってほしいです。  

編集後記

 インタビュー全般を通して馬場さんは「ご縁がつながる」「社会をつなげる」と「つながり」について何度も口にしていました。また、子どもやスタッフ、夢について語るときのキラキラした瞳がとても印象的でした。

 プライベートでも今年再婚し、自宅・パートナー宅・高松と生活拠点を3つに広げて精力的に活動する馬場さん。「メディアには感謝している」との言葉に、編集部もエネルギーを頂きました。

 高松経済新聞では今後も高松を元気にするような著名人や経営者にインタビューを行い、読者の皆様の人生の羅針盤(コンパス)となるような読み物を製作していきます。

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