「七福神巡り」をご存知だろうか? 七福神巡りは恵比寿神、大黒天、毘沙門天、弁財天、布袋尊、福禄寿、寿老人の七柱の神「七福神」が祭られている寺社を全て回って、お参りすると7つの福を授かることができるもの。宮城県仙台市の「奥州仙臺七福神」や愛媛県松山市の「伊予七福神まいり」をはじめ、全国各地に七福神を祭る寺社があり、それらを回るコースがネット上でも紹介されている。
現在はあまり知られていないが、ここ高松でもかつて七福神巡りの風習があった。それは明治の終わりから昭和の初めごろまで「高松竹馬会」という文化人の集まりで催され、旧正月の7日に集まり市街地の七福神ゆかりの寺社を歩いて巡っていたという。
戦中戦後を経て、すっかり廃れてしまったこの高松七福神巡り。「高松今昔記」(荒井とみ三、1978、歴史図書社)によると1955(昭和30)年に復興させようという動きがあり、高松市商工観光課が主催して旧正月7日にバス2台で巡ったという。同書には「初回には昭和初めごろの竹馬会のメンバーだった『三友堂の大内老』も参加したが、この催しも数年で幕を閉じた」とある。
この記事に好奇心をあおられた。高松市街に七福神に関係する寺社が7つそろっているということも初耳だ。ぜひとも調べてみようと思ったのだが、昭和30年といえば、もはや70年近く以前のこと。手がかりが市役所にないかと尋ねてみたが、出てきた担当者も初耳だという。
それではと、次に訪れたのは老舗菓子店「三友堂」(高松市片原町)。先述の記事の中にある「三友堂」は恐らくここに違いないと思って訪問してみたのだが、対応していただいた大内英生・現社長は「何分にも随分過去のこと。先代が健在であれば多少は分かることもあったのですが…」と、申し訳なさそうに答える。
そこで本に書かれてある所在地を直接訪れて、現状がどうなっているのか調べてみた。結果は以下の通り。(寺社の表記と町名は同書に倣う)
〇恵比須:東浜町東濱神社
これは北浜アリー南と城東町それぞれ向かい合うように建てられている二社の恵比須神社のことだと思われる。過去には十日恵比須で賑わいを見せており、旧市街地の住人にとってはなじみの深い神社。
城東町側の東濱神社(1月8日撮影)
境内内に祭られた恵比須像
城東町から北浜アリー側の眺め 木の茂っている辺りがもう一つの東濱神社
住所:香川県高松市城東町2-4-3
〇大黒天:西浜町の西方寺
現在の西宝町の西方寺。
話を聞くと何らかの事情で既に大黒天はないとのこと。境内には現在、弁財天が祭られている。
小高い場所にあり、高松が一望できる
住所:香川県高松市西宝町3-9-27
〇毘沙門天:野方町(松福町)寶搭山多聞寺
多聞寺は松福町にあり、毘沙門天を本尊とする。
地図で周囲を探したところ、境内から東に1キロほど行った、ことでん今橋駅の裏に毘沙門天堂があった。
先ほどの多聞寺で話を聞いてみたが、関係性はないらしい。毘沙門天を祭る場所がこんな近くに2つあるのは何とも不思議なこと。引き続き調査を続けたい。
多聞寺住所:香川県高松市福岡町4-13-11
〇弁財天:三番町の正覚寺
高松市役所(番町1)の裏、旧四番丁小学校の北にある正覚寺。今でも本堂の中に弁財天は祭られているようだが姿を見ることはできない。外からのお参りは可能。
住所:香川県高松市番町1-2-5
〇福禄寿:多賀町の多賀神社
こちらはそのまま多賀町の多賀神社。高松商業高校(高松市松島町1)正門近くの交差点に位置するが福禄寿そのものは確認できず。
住所:香川県高松市多賀町2-1-26
〇寿老人:花の宮町の妙見寺
現在は中央町の廣昌寺に移転。英明高校(亀岡町)の真正面に位置しており、境内にはしっかりと案内板もある。
住所:香川県高松市中央町6-18
〇布袋尊:石清尾八幡宮
言わずと知れた高松市の氏神。拝殿の裏に並んでいる祠(ほこら)の左から2番目、御先神社の祠が布袋尊を祭ったものだという。
住所: 香川県高松市宮脇町1-30-3
こちらで事情を説明すると、保存していた七福神巡りの冊子を快く探し出してくれた。冊子についてはいつ誰が何のために作ったものか分からないとのことだが、先述の「高松今昔記」にあった高松商工観光課主催の七福神巡りの際に作られたものではないかと思われる。寺社名と住所も一致している。
神社に保存されていた冊子
さらに話を聞くと、布袋尊とされている拝殿裏の御先神社の御祭神は天之宇受売命と猿田彦命の夫婦神であり、七福神巡りでは布袋尊として参詣するようになった理由などは不明だという。
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以上、ご神体の有無はそれぞれだが、高松には現在でも七福神巡りが可能な位置で各寺社があることが分かった。
ちなみに今年の旧正月は1月22日で旧正月7日は1月29日。七福神巡りもガイドのホームページがあるなど、密かに人気を見せている。ちょっとした冒険気分で高松市内の七福神を巡ってみるのもいいのではないだろうか。
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このコラムでは毎月、知るとちょっと奥深い高松の歴史について紹介していきます。
どんな「歴史小話」が飛び出すか、次回もお楽しみに!
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