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【高松を元気にする100人 VOL.9】大美光代さん【地域の課題に取り組む人たちに光を】

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【高松を元気にする100人 VOL.9】 大美光代さん
【地域の課題に取り組む人たちに光を】


 「中間支援活動」という言葉をご存じだろうか?地域づくり活動に取り組む担い手の自立・継続に向けて、担い手が必要とする情報の提供やアドバイス、マッチング、コーディネートを行うなど担い手に寄り添い、伴走型で支援を行う活動を指す。

 ここ高松で地元の地域活動に光を当て、支援の輪を広げようとする一人の女性がいる。NPO法人「わがこと」やコミュニティー財団「たかまつ讃岐てらす財団」の代表を務める大美光代さんだ。

 目の前にあるさまざまな地域活動に取り組む人たちを主役にして応援したいと日々活動にいそしむ大美さん。だが10年前には地域活動やNPOのことは全く知らなかったと言う。今回は大美さんに地域活動に関わるようになるまでの道のりと代表を務める「わがこと」「たかまつ讃岐てらす財団」の活動、そこに懸ける思いを聞いた。

大美光代さん

 1. 「わがこと」設立まで ー市民活動との出合いー

−「わがこと」設立までのことを教えてください 

 生まれも育ちも高松です。高校卒業後はマクドナルドでアルバイトをしていました。その後結婚・出産を機に辞めたのですが、離婚をし親権を得るために新たに仕事を始める必要が出てきました。そこで2007(平成19)年から始めたのが電話対応の仕事です。8年間、とてもやりがいのある仕事をさせてもらえたのですが、ある日、所属していた部署がなくなることが知らされました。

 そこでふと「雇われる生き方から離れてみよう」という思いが湧いてきました。35歳のことです。「もし5年やってだめだったらまたどこかに雇ってもらおう」と、その後のことも決めていなかったのですが退職しました。

−そうだったんですね。そこから「わがこと」設立までどのようなことがあったのでしょうか。

 それまでの私の人生は地域活動と全く関わりのないものでした。当時の私は、息子の学校でのPTA活動も6年間絶対関わらずに逃げ切ってやると固く心に決めていました(笑)
ひとり親で息子と2人きりの自分に他者や地域のことを構っている余裕なんてない、申し訳ないがそっとしておいてくれと思っていたんです。

 そんな中、会社員時代の先輩でNPO活動をされている方から、高松市が運営する人材育成塾「地域づくりチャレンジ塾」がスタートすることを聞きました。その時のチャレンジ塾は「起業しなくていい創業塾」、市民活動の担い手も育てるけれどビジネスプランも持ってきて良いというスタンスで連続講座を行う場所でした。私が次のビジョンもないまま退職することを聞いて、その先輩が「私も行くし、軽い気持ちで良いから受けてみたら」と誘ってくれたんです。

高松市地域づくりチャレンジ塾の様子(2018(平成30)年)

 当時、私はNPOがどんなものか分かっていなかったですし、市民活動を歴史の授業で習った「学生運動」と混同して「なんだか過激な活動をする人たち」と思うくらい無知でした。興味がないし、チャレンジするような志も持っていない私が行っていいのかと思いつつ、足を踏み入れました。

 チャレンジ塾に行って驚きました。目の前にある地域課題に「これはほっとけない」と「何とかしないと」と関わる多くの方がいて、それが当時の自分の考え方とあまりにもかけ離れていたからです。自分が生活のことしか考えていない時に地域でこんな問題があって、わが事のように関わろうとする人がいるなんて考えてもみませんでした。

 チャレンジ塾との出合いで自分の意識も少し変わり、「息子のPTA活動にも少し関わってみようか」と思うようになりました。そうして始めたPTA活動がとても楽しかったんです。と言うよりも「ボランティアなんだから楽しまないともったいない」と言う気持ちでやっていました。

 当時私は広報部員でしたが広報活動はとても楽しいものでした。なぜなら、例えば運動会の時でも広報の腕章があれば、思う存分運動場を歩き回れるからです。また、広報部員として活動することで地域の方々とのつながりを明確に感じるようになりました。驚いたのが、私の知らないところで息子と地域の方々と関わりが生まれていたこと。通学路で息子が私の知らないおじさんと話しているのを見て誰か聞くと「〇〇のところのおじさんで、毎朝ここまで送ってくれる」と話してくれるんです。それを聞いて「私は一人で生きてきたと思っていたけれどそうじゃない。いろいろな人に支えられて生きてきたんだな」と気づきました。

 敬老会や池の清掃など何気ない地域の活動をしてくれる人たち、目の前の課題を人任せにせず一生懸命に取り組む方々もこんなにいるんだと気づくとありがたいと思うようになりました。一方で正直、「もうちょっと要領よくやればいいのに」とも感じていました(笑)
でも、ひたむきに取り組む姿を見て「この人たちこそ大事にすべきだ」と思うようになりました。「この人たちと一緒に地域というフィールドで仕事がしたい」と思うようになったのですが、その時の私ができることと言えば、「いいね!」「面白い!」と言いながら、一緒に楽しむかちょっとだけ背中を押すことだけでした。そんな中、「中間支援」という言葉を初めて耳にしました。
 「地域で活動する人たちの1番の応援者になりたい」と周りに話すと「私もそれは必要だと思う」と言ってくれる人が出てきました。そんな仲間が集まって2018(平成30)年、NPO法人「わがこと」は誕生しました。

 2. 聴かせて!「わがこと」のわがこと ー地元で活動する団体を応援したいー

「わがこと」メンバーら

 「わがこと」という名前には「いろんな地域のことを自分のこととして捉える人が増えると良いな」という思いを込めました。地域の課題を解決しようと頑張っている人たちがへこたれないように、目の前のことに一生懸命に取り組んでいる人たちが不遇な思いをしないように応援する「黒子」のような存在でありたい、これが当団体の活動の信条です。

具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。

丸亀市市民活動センター「マルタス」で開いたNPO相談会の様子

 活動の整理や目的の確認などの壁打ち相手になることが一番多いです。「なぜその活動をするのか」「どんな風に改善していきたいか」をしっかり聞くようにしています。NPOは収益を上げることでなく「暮らしをよりよくすること」が主目的。「自分の中で何が課題として感じているか、それは地域にニーズがあることか。その課題を解決するにはどれだけ資金が必要か、どうやって調達するか」を調査して事業計画を立てるお手伝いや、みんなで学び合うための講座や機会もつくります。

 NPO活動をしていると「自分たちは良いことをしているからそれで良いだろう」と言う考えに陥りがちです。無償の美徳は悪いことではないけれど、自分のやりたいこと「WANTS」を投げつけているうちはそこに社会的意義も生まれづらい。地域の「Needs」に応えられるようになること、3歩先の視点で半歩先をリードするような、そんな視点が必要とされています。なかなか難しいですよね。あまたある暮らしの課題の中でなぜこれがピンポイントで気になったのか、深く取り組もうと思うようになった背景には絶対に理由や「原体験」があるはず。そこを言語化できれば、思いに共感して、ともに活動してくれる仲間や支援者が増える。そこには緩やかながらも当事者性や主体性を持った新しいコミュニティが生まれます。そんな足腰が強い人が多いまちって、シンプルに面白いと思うんですよね。「私もそれは気になっていた」と言う人が増えてくると地域は勝手に良い方向に転がっていくのではと考えています。 

高松市から受託して行った「たかまつ政策プランコンテスト」(2019年)

 3. 香川県初の市民コミュニティー財団「たかまつ讃岐てらす財団」 ー市民と地域活動の担い手を結びつけたいー

ありがとうございます。続いて「たかまつ讃岐てらす財団」についてお聞かせください

 「たかまつ讃岐てらす財団」は香川県初の「市民コミュニティー財団」として設立されました。地域の住民や企業から寄付を募り、地域の課題解決に取り組む団体に対して資金援助や伴走支援を行っています。簡単に言えば、「皆で作る地域の財布」です。


「たかまつ讃岐てらす財団」設立時の記事:https://takamatsu.keizai.biz/headline/622/

 「わがこと」として活動する中で、どのNPOも人材と資金、情報の拡散の仕方など共通するテーマで困っていると感じました。そして、「この人たちの活動はどれくらいの方が知っているんだろう」「情報が広まらないから人材や資金も集まらないんじゃないか」と思うようになりました。

 私が幸運だと思うのはNPOの方だけでなく、ビジネスの世界で事業をして利益を出している方ともつながりがあったこと。ビジネスで活躍する方々にNPOや市民活動のことを話すと非常に関心を持ってくださる方が多いんです。地域課題に対し一緒に汗をかいて取り組む時間はないけれど関心がある経営者の方も少なからずいる。一方で、地域課題に必死に取り組む方々は目の前の課題以外のことに向き合えず、自分たちの活動を外部に紹介する手だてを持ち合わせていないことが多い。ここでミスマッチが発生していると感じました。

 NPOや市民活動をする方々には「目の前の地域の課題」と「自分たち組織内の課題」の2種類の課題があります。地域課題に真摯に向き合うことで組織の課題が後回しになってしまう団体も少なからずあります。組織の課題の大半は資金と人材の不足です。この2つの課題を団体の方々の力で解決するのはかなり難しいだろうと思いつつ、どうやって解決すれば良いのか分かりませんでした。

 そんな中、3年ほど前に全国には「コミュニティー財団」という仕組みがあることを聞きました。そしてコミュニティー財団が香川に一つもないことを知り、直感的に「これは誰かがやらなきゃいけないな」と思いました。地域課題に取り組む人たちのことをもっと社会に広め、寄付というアクションを通じて、地域に関心を持つ人数を増やす役割を果たせないだろうかと思い、「たかまつ讃岐てらす財団」を設立しました。

 地域活動は「汗をかく」「知恵を出す」「金を出す」の3つの要素があると言われます。一緒に汗はかけないけれど、資金は出せる、あるいは資金援助は難しいけれど知恵なら貸せるなどの関わりもできるはず。もっと地域活動をしている方々のことを知ってもらい、参画や支援を呼びかけたいと考えています。

 昨年助成金を出す時には、助成先の選考プロセスの中で、団体の活動を多くの方にまずは知ってもらうことを大事にしました。公開審査会を行い、地域活動、市民活動の団体間同士の相互理解の機会も作ろうと考えました。


公開助成審査会の様子:https://takamatsu.keizai.biz/headline/715/

 地域活動への関わり方はたくさんあるし、地域を良くしたいと思っている方は多いはず。「たかまつ讃岐てらす財団」は特定の誰かから多額の寄付を受けたのではなく、およそ640人の方から1口3,000円からの寄付をお預かりしてできた300万円を基に設立しました。今年8月には香川県の認定を受け、公益財団法人になりました。活動1年目で事業規模が数百万円規模に過ぎない団体が公益財団申請を受けるのは、香川県では前例がなかったのですが、公益財団法人に指定されることで地域からの信頼も大きく上がりますし、ご寄付を寄せてくださった方への税制上の優遇もあるので、必死で書類を作成しました。

 当財団は皆さんの声を聞いて、皆さんからお預かりした寄付を基に支援のアプローチをしていく団体です。自分たちで応援したいところを決めて、資金援助できる財布のような器があるのは面白いのではと考えています。

 今年から新たに「プロジェクト指定基金」も始めました。これは香川県で活動する地域団体やNPO団体を指定して直接支援する仕組みです。いわば「てらす版クラウドファンディング」で、頂いたご寄付はいったん当団体でお預かりした後、助成金として該当団体にお渡しします。渡した後の報告や領収書のやり取りなどの処理も全て当財団で行います。


プロジェクト指定基金ページ:https://sanuki-tellus.jp/project/

 他に「冠基金」も始めました。これは、例えば「子どもに関わることに使ってほしい」と言うように使い道やテーマを指定して自分で名前をつけて作ることができるものです。基金を設定する際は当団体で基金設立の思いを聞き、規定に沿って選考していきます。このようにさまざまな支援の輪が広がることで「諦めずに挑戦しよう」という団体もきっと出るはず。

 「わがこと」も「てらす財団」も自分たちが主役になる団体ではなく、「地域活動をする方々がいかに活躍できるか、そこに参画する市民をいかに増やせるか」に焦点を当てています。私にはそんなに高い志はありません。やりたいこと、必要なことに志を持って真っ向から向き合う方々が私にはまぶしく見えて、その背中を後ろからちょっと押すくらいしかできないと考えています。やりたいことはないけれど、顔が浮かぶ知り合いの方が幸せになるようなことをしたいと思っていて、それがある意味私のやりたいことなのかもしれませんね。

 編集後記

 終始「私はそんなに高い志のない人間」と話していた大美さん。けれども一生懸命課題に取り組む方々に伴走して応援することは、誰もができることではありません。活動する方々の思いに耳を傾けて光を当てようと活動してきた大美さん。そんな彼女の取り組みに今後も注視していきます。

 高松経済新聞では今後もさまざまな活動で香川・高松を元気にする方々を紹介していきます。次回の更新もお楽しみに。


 

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