高松を元気にする100人 VOL.4「うどん脳」&岡谷敏明さん
岡谷さんと「うどん脳」
香川県のご当地キャラクター「うどん脳」。うどんを食べ過ぎて、脳がうどんになってしまった元人間の妖怪だ。登場当時はそのシュールなビジュアルに賛否両論が吹き荒れたが、10周年を過ぎた現在はすっかり「香川県の顔」として、圧倒的な存在感を放っている。実は、「かわいいだけじゃない」このインパクトの強さこそ、「うどん脳」生みの親である岡谷敏明さんの狙いだった。
岡谷さんはイラストレーター兼デザイナーとして活躍していたが、当時中心だったイラストの仕事が減少したことで、オリジナルキャラクターの開発を決意。特徴的なビジュアルにこだわり、およそ2年かけて「うどん脳」を誕生させるも、なかなか注目は集まらなかった。
苦肉の策として着ぐるみを作った頃、ちょうど「本場さぬきうどん協同組合」から「公認うどん大使」に任命され、巨大化した姿で表舞台にデビュー。ここから「うどん脳」の快進撃が始まった。
「面白いことをして、みんなが笑ってくれたらうれしい」。そんな、岡谷さんの素直な感情が「うどん脳」の魅力につながっている。
香川県から笑いと元気と癒やしを届ける「うどん脳」、そして岡谷さんに話を聞いた。
-まずは「うどん脳」に自己紹介をお願いしたいです。
「ツルきゃら うどん脳」ツル! ちょっと名前が長いから、最近は「妖怪うどん脳」とか、「うどん脳」っていう言い方をしてるツル。愛称はツルちゃん! 誕生日は、2011(平成23)年7月7日の釜揚げ生まれ。7月2日が「うどんの日」だから、何で2日じゃないのって突っ込まれるけど、7日が誕生日だよー。
-そうなんですね。一番好きな食べ物はうどんだと思いますが、うどん以外に好きな食べ物はありますか。
うどんの平べったい耳の部分、「ペロリ」を食べれると一日幸せツル 。「ペロリ」はわざと使ってるお店もあるけど、うどんを切った時の端っこが偶然入ってるパターンの方が多いから、滅多に出てこないツル。あとはちくわ天、食べ終わった後のだしに浮いてるネギ、コーラー(コーラ)、かりんとう、甘酒、カプ●コ、プリン、唐揚げ 、豆、煎餅…。好きなもの同士を一緒にしたくて、コーラ-にうどんを漬けて食べたら、あんまりおいしくなかったツル…。
-それは、なかなか難しいかもしれません…。自身のチャームポイントはどこだと思いますか。
休憩が大好きで、とにかくマイペース過ぎるところツル。仕事でイベント会場に行っても、時間があったら椅子に座ったり、どっかにもたれたりして休むツル。そうやって休んでる姿がかわいいって言われるツル。あと記憶力が弱くて、同時にいろんなことができないのもツルのチャームポイントツル!
-元は人間だったというのは本当ですか。
人間だった時の記憶はほとんどないけど、うどんが大好きで、うどんばっかり食べてたら、ある朝「うどん脳」になっちゃった。ショックで家を飛び出して、自分の家がどこにあるかも忘れちゃったの…。高松の赤いガラスの灯台で泣き崩れてたら、散歩中の「オカピおじさん」に保護されて、そのまま居候してるツル。ちなみに「オカピおじさん」には「オカピおばさん」っていう奥さんがいて、最近は「超★オバさん」っていうキャラクターで一緒にいろいろ活動してるよー。
赤灯台の下にたたずむ「うどん脳」
-「玉分身の術」で増えた「家族」がいるそうですが、家族が増えたきっかけは?
日本全国からたくさんのオファーが来るようになって、香川県と関東、関西を往復することが多くなったから。「分身して2玉になったら、慌てずに済むかも?!」って思って、数カ月修行して3玉に増えたツル。だから同じ日に東京と香川県にいることもできるツル。今は「暗黒麺J(ジャーク)」くんと「うどん脳Z(ゼット)」くんがいて、4玉目の「うどん脳F(ふうちゃん)」も分身の修行中ー。ふうちゃんは今までにない丸々した体型で、目がかなり大きくて、順調に修行が終われば4月にデビュー予定! みんなで「うどん脳ファミリー」ツル!
左から「うどん脳」、「暗黒麺J(ジャーク)」、「うどん脳Z(ゼット)」
それから「ピンクリボンかがわ」とか、特別な任務の時は女の子っぽい「ツル子」が現れるし、謎の生物の「ツルノコ」と、ハトの「ツルポッポ」っていうお友達もいるんだよー。どっちもツルが1玉だった時にできたお友達で、ツルノコは香川県の讃岐山脈にしか住んでないツル。ツルポッポは、ツルがミラノ万博に呼ばれた時にお友達になって、日本に一緒に来てくれたの。イベントでは、ツルの手からツルポッポが出る「ツルマジック」もやってるツル!
-「うどん脳」はマジックもできるんですね。
具ふふ! できるよー。
-ここからは、「うどん脳」の保護者である「オカピおじさん」…「うどん脳」生みの親である岡谷さんに話を伺います。「うどん脳」はどんな背景で、いつ頃誕生したんですか。
リアルな話で言うと、10年以上前に担当していたイラスト関係の仕事が立て続けになくなってしまったんです。「一生懸命頑張っても、会社から仕事をもらっている以上は仕事がなくなるんだ」ということが分かって、「それじゃあ自分でオリジナルのキャラクターを作って、個人で活動したらどうだろう?」と考えて、2年くらいかけて誕生させたのが「うどん脳」です。
キャラクターを考えている時から、「うどんのキャラクターにしたい」という思いはありました。香川県で、一番分かりやすいですし。それから普通のご当地キャラクターはかわいいのが多いので、自分で作るキャラクターはかわいい以外の要素を入れたいと思っていましたね。気持ち悪いとか、顔にすごく特徴があるとか…。イラストは何回か描いたんですが、当時の自分としてはインパクトが弱くて気に入らなくて、何年も悩みました。
ちょうどその頃に、丸亀市出身で「踊る大捜査線」の監督の映画「UDON」が上映されて、いろんな人がうどんに絡めた商品を発表したんですけど、僕はこの映画のブームには乗りたくなかったんです。ブームに乗っただけで終わってしまうと思ったし、売れてもそれは自分が作った作品の実力じゃないなと思っていたので。うどんブームが収まった頃にキャラクターを出したいと考えていたある日、ふと「脳とうどんが似ている…。あっ、うどん脳!」とひらめいて、ノートにサラサラっと数分で描いて「うどん脳」が誕生しました。2011(平成23)年の7月のことです。
「うどん脳」初期イメージ
-初期の「うどん脳」はどんな姿だったんですか。
当時の「うどん脳」はきれいな線じゃなくて、輪郭線がギザギザしていました。目も丸じゃなくて、丸と三角。最初はノートに描いたものをそのまま商品化したので、お客さんからは「これ印刷ミスじゃないですか」って言われましたね。そこからきれいなペンで描き直したり、タッチを整えたりしていきました。三角の目の上にきれいな丸をのせて、どちらも丸い目に修正したりとか…。あとは手描きなので、やっぱり変形がかかって斜めになるじゃないですか。それをパソコン上でちょっとずつ調整していきました。他にもその時期その時期によって、「ちょっと直してみようかな」と思うところがあれば直しています。最近では「うどん脳」の丸い頭の中の、脳みそと顔がちょっと大きいかなと思って中だけ縮小しました。
-よくよく見たら、その時代その時代の「うどん脳」になっているんですね。
そうですね。何人の人が気付いてくれるか分かりませんが、ちょっとずつ進化しています。もちろん、「キモかわいさ」と「見て覚えやすい形」は「うどん脳」の魅力なので、常に意識しています。
-「うどん脳」はどんな風にデビューしたんですか。登場当時の周囲の反応も教えてください。
「うどん脳」はツイッターでデビューして、最初はツイッターだけで展開していました。一応、同時進行で簡単に作れそうな商品…ポストカード、缶バッジ、Tシャツは販売しましたけど、活動というとそれくらい。行政ではなく、お金も人脈もない2人だけの活動だったので、なかなか大きな話題にはなりませんでした。アポイントして訪問した先で、5分も話していないうちに「帰って」と言われたこともあります。
当時の仕事仲間の人は、僕がいないところで「これはすごいキャラクターができたんじゃないか?」と話していたそうですが、全然違う場所だったら「大丈夫かな?」という意見もあり…。反応は両極端だったみたいですね。
うどん好きの方は結構応援してくれて、県外の方からも「香川県に帰ったら絶対グッズを買うからね」といった声をもらいました。僕、基本営業をしたことがないんですよ。自分が作ったキャラクターをどう売り込んだらいいかなんて考えずにやっていたので、周りの人が「テレビで紹介するよ」「買った商品をどこかに持っていくよ」と言って、広めていってくれたのが強かったです。
-「うどん脳」が誕生してから1カ月後に「うどん県」が発表されました。これは偶然ですか。
はい、偶然です。と言っても、「うどん脳」が生まれる10年以上前から、うどんブームはありました。火付け役になった「恐るべきさぬきうどん」という本が出て、ブームが落ち着いた頃に映画「UDON」が発表されて「うどん脳」が誕生したんですけれども、その1カ月後にまさかのタイミングで「うどん県」。香川県が「うどん県」として全国的に報道されて、僕らが入っていくところがなくなってしまったんですよね。どこへ行っても「うどん県」「うどん県」になって、逆に「うどん県ブームに乗っかってきたの」みたいな言い方もされました。「いや、実は『うどん脳』の方が先なんですけど…」みたいな。
「うどん県」ばっかりが持ち上げられて、「うどん脳」を見てもらえないのがすごく引っ掛かっていた時に、県外のイラストレーターさんと「『うどん脳』の着ぐるみを作ったら、みんな見てくれるんじゃないかな」という話になりました。そこで2011(平成23)年11月、人間界で言う着ぐるみを作ることになったんです。デビューから4カ月後のことですね。
でも、なかなか製作をお願いするところの選定が難しくて、2012(平成24)年になってからオファーを出して、完成したのがその年の6月。ちょうど着ぐるみができてきた…「忍法巨大化の術」のタイミングで、「本場さぬきうどん協同組合」さんから「公認うどん大使」の話があって、7月2日の「うどんの日」に大使任命を発表しました。
「公認うどん大使」に任命された「うどん脳」
-着ぐるみの誕生と、「公認うどん大使」任命のタイミングが重なったことで、人気に火がついたんですね。
そうですね。この時はテレビや新聞でかなり紹介されて、全国的なニュースになりました。ビジュアル的にすごく大きい着ぐるみが出てきたから、インパクトがあったんだと思います。「本場さぬきうどん協同組合」というきちんとした組織が、脳みそが出ているキャラクターを採用したというインパクトもあったでしょうね。ネタ的に面白かったので、日本の記事を英語に変換したものが外国で報道されたり…。あとは外国の有名サイトでも、「うどんゾンビ」として写真付きで紹介されました。
先ほどもお話しした通り、自分で何かしたというよりも、いろいろな方から運よく声が掛かって、やがては映画、ドラマ、CM、DVDなどに出演することができました。
-「うどん脳」は現在、どれだけの「任務」を請け負っているんですか。
「うどんタクシー」の見習い運転手、「さぬき映画祭」のPRキャラクター、香川県医師会公認「ドクターうどん脳」、「ウルトラうどんマラニック大会」名誉会長…。乳がん検診を啓発する「ピンクリボンかがわ」や、屋島のクリーンアップ活動を中心に行う「Yashima Blue Activity(屋島ブルーアクティビティ)」ともコラボしています。海洋ゴミ対策プロジェクト「CHANGE FOR THE BLUE」ではうどん屋さんの周辺掃除活動をやっていますし、今年3月1日には、高松市北消防署の一日消防署長に任命されました。
-大活躍ですね。「うどんタクシー」の見習い運転手は、どんなことをするんですか。
琴平バスが運営している「うどんタクシー」のPR活動です。「うどんタクシー」自体は、多分20年ぐらい前からあると思うんですが、数年前に「ご当地タクシー」…「ラーメンタクシー」や「カステラタクシー」といった、地元で名物になっているものをあしらったタクシーのくくりになり始めたんです。その時に「うどんタクシー」と「うどん脳」がタッグを組んだら面白いんじゃないかということで、見習い運転手に任命されました。地元のイベントや台湾のイベントに参加して「うどんタクシー」をPRしたり、あとはコロナの関係で観光客が減った時に、琴平バスのPR動画に出たりしましたね。
「うどんタクシー」の見習い運転手を務める「うどん脳」
-「ウルトラうどんマラニック」とは何ですか。
マラソンはコースによって名前が付くんですけれども、ウルトラと付くのは結構長距離のマラソンなんです。「マラニック」はマラソンとピクニックを合わせた造語で、どちらかというと食べる系がメインのマラソン。「ウルトラうどんマラニック」では、走りながらうどんを食べます。何カ所かうどん屋さんに立ち寄って、そこでうどんを食べて、また次の行程に向かって走るという。これの名誉会長として、PR活動をやっています。中止にならなければ、次回は4月にあるはずです。
-「うどん脳」も、うどんをすすりながら走ったりするんですか。
ちょっとね、それは厳しいので(笑)、スタートとゴールの時に応援しています。
-失礼しました(笑)。最近では「うどん脳聖地巡り」ということでラッピング自動販売機を設置しましたが、これを設置した背景は?
今までは「うどん脳」を好きな方ができることというと、販売店で「うどん脳」の商品を買うことが中心になっていたんです。ちょっと種類を増やす気はないんですけど、販売店では「ご当地うどん脳」という商品を販売していまして、例えば高松空港だったら「ひこうきうどん脳」、「道の駅 源平の里むれ」(牟礼町)だったら昔のよろいを着て頭に矢が刺さっている「源平うどん脳」というように、その地域地域の、そこにしか売っていない「うどん脳」グッズを買うという感じだったんですよ。
でも、その店が休みだったら商品を買うことができないし、記念撮影もできない。だから外に置けて、店の営業時間に関係なく記念撮影もできる自動販売機を増やして、「うどん脳」を好きな方がもっと楽しめるようにしよう、という計画でした。
ただ、いろいろな事情があって自動販売機第2弾は難しそうなので、またそれに代わる新しい何かをしたいなと思っています。
「ふる里うどん」(川島東町)の店先で、自身のラッピング自動販売機と並ぶ「うどん脳」
-既にさまざまな「任務」や活動がありますが、「うどん脳」がこれから挑戦したいことを教えてください。
今、ツイッターで投稿しているうどん屋さんの紹介をもう少し濃く、詳しい内容にしたいですね。あとはまだうまく稼働できていないんですが、インスタグラムもやってみたいです。
それから、小豆島の「妖怪美術館」(土庄町)とのコラボレーション。妖怪美術館には「みちしるべぇ」というキャラクターがいるんですが、あのキャラクターとツイッターで「妖怪さぬき同盟」を組んだので、これからいろいろコラボ活動ができたらいいなと思っています。小豆島では「オリーブしまちゃん」も頑張ってくれているので、しまちゃんも含めた3キャラで一緒に小豆島を盛り上げたいです。本当はもっと早く動く予定だったんですけれども、コロナでね、なかなか小豆島に行けない。小豆島に行くタイミングに合わせて「まん防」が出たりして、昨年から4回ぐらい話が止まっているんですよ。なので、今は様子を見ている感じです。
-この状況では、そうなりますよね。
あと、コラボに関係ないところであれば、ツイッターの投稿でバズってみたいです。以前「バンクシー」のオークション作品がシュレッダーにかかったことがあって、そのシュレッダーにかかった作品をパロディにして、「うどん脳」の作品を作ったんですよ。それがめちゃくちゃ受けて、1週間ぐらい取材の電話とメールがすごかったことがあるので、またそれくらいの面白いネタが作れたらいいなと思います。
「目標は1万リツイートツル!」
-あっ、「うどん脳」! 置いてきぼりにしてごめんなさい。それでは最後に、高松経済新聞の読者にメッセージを頂けますか。
ツルは不器用だけど、不器用なりにこれからもうどん屋さんや、高松の面白いところをツイッターメインで紹介したり、また大きなイベントを開いたりしたいと思っているツル。世界中に笑いと元気と癒やしと、讃岐うどんを広めるために頑張るので、応援よろしくお願いしますツル!
「うどん脳」の声に耳を寄せる岡谷さん
…ん? そうだね、最後は一緒に言おうか。せーの、「ツルツルウエイ」!(うどん脳・岡谷さん)
今回は高松を元気にする「人」ではなく、「人と妖怪」を取材しました。かわいいだけじゃないキャラクターとして生まれた「うどん脳」ですが、見れば見るほどかわいく見えてきませんか? 個人的にはすっかりファンです。今回のインタビューで登場した、妖怪美術館の「みちしるべぇ」や小豆島の「オリーブしまちゃん」以外にも、高松琴平電気鉄道の「ことちゃん」や新屋島水族館(屋島東町)の「マナやん」など、香川県には魅力的なキャラクターがたくさんいます。愛らしいキャラクターと一緒に、もっともっと高松、香川を盛り上げていきたいです。
次回もお楽しみに!