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【瀬戸内国際芸術祭2022 はじまる】

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瀬戸内国際芸術祭2022 はじまる

『Liminal Air -core-』大巻伸嗣

 1. 瀬戸内国際芸術祭 概要

 瀬戸内海に点在する島々や沿岸の街を舞台に3年に一度、春から秋にかけて開催されてきた瀬戸内国際芸術祭。昨今のコロナ禍で2022年度の開催は危ぶまれていたが、4月14日より、5回目が開催された。

 通称「瀬戸芸」として地元で愛される同芸術祭には、「島のおじいさんおばあさんの笑顔を見たい」という願いが込められている。

 また「芸術祭の時期に訪れる、観光客の好奇心や期待を満たすだけではなく、人が訪れる『観光』が島の人々の『感幸』でなければならず、この芸術祭が島の将来の展望につながって欲しい」をモットーに、「美しい自然と人間が交錯し交響してきた瀬戸内の島々に活力を取り戻し、瀬戸内海が地球上のすべての地域の『希望の海』となることを目指す」としている。

 前回の第4回は2019年、香川、岡山両県の12の島と高松、宇野両港周辺を会場に、4月26日~11月4日に春・夏・秋の3期制で開催、約117万人が来場。

 今年も春・35日間(4月14日~5月18日)、夏・31日間(8月5日~9月4日)、秋・39日間(9月29日~11月6日)の3期制で開催予定。常設の屋外展示作品だけでなく、同芸術祭の期間でのみ鑑賞できる作品や参加できるイベントが多数企画されている。

 会場は第4回と同じく、直島(21作品)、豊島(10作品)、女木島(11作品)、男木島(10作品)、小豆島(20作品)、大島(12作品)、岡山県犬島(9作品)、高松港周辺(10作品)、岡山県宇野港(5作品)周辺が全会期開催、春季のみ開催となるのが沙弥島(2作品)、秋季のみ開催となるのが本島(8作品)、高見島(6作品)、粟島(6作品)、伊吹島(4作品)の4島。

 2. 実行委員インタビュー ウィズコロナの芸術祭

 3年ぶりの開催を迎え、主催者は何を思うのか。2019(平成31)年のオフィシャルガイドを経験し、現在は瀬戸内国際芸術祭実行委員会の広報を務める棟保珠美さんに、コロナ禍での困難や今年の芸術祭に掛ける思いを聞いた。

入国難から生まれた、国内外の作家の助け合い

 今回はコロナ禍で開催される初めての芸術祭です。現実的に海外の作家さんが入国できない状況で、どうすればそうした作家も制作活動ができるのか。私たちは、まずそれを考える必要がありました。国際芸術祭と銘打っている以上、海外の作家がいなければ実施はできません。コロナ禍という未曾有(みぞう)の事態ですので、どういった対策を取れば安全・安心な芸術祭を開催できるのかを、手探りで考えていくという課題もありました。

 現状としては、海外で入国できない作家を、日本の作家さんがサポートしているような状況です。例えば2010(平成22)年の第1回から参加している豊福亮さんは、今回も男木島で新作を展開する予定でしたが、海外の作家さんが入国できないということで自身の出展を見送り、過去の芸術祭などで交流があったレオニート・チシコフさんの制作サイドに入ることを選択しました。今回レオニートさんは入国できませんでしたが、豊福さんのサポートを受けて、かなり大規模なインスタレーションを沙弥島と与島(以上坂出市)で展開する予定です。

 ただ豊福さんの例はかなり異例で、3月29日時点で出展見送りと発表されているのは、豊福さんを含めて5人の作家のみです。前回は32の国と地域から230組の作家・プロジェクトが参加、今回は33の国と地域から186組の作家・プロジェクトが参加と、参加作家・プロジェクト数としては数が減っていますが、展示する作品数は前回が214点、今回が206点と、ほとんど減っていません。今年は作品の展示と合わせて、19のイベントも予定しています。

続けることで、島民との絆をつなぐ

 島民の皆さんからは、やはりコロナに対する心配の声もありますが、それと同時に開催を待ち望む声を多くお聞きします。3年に一度ということで、島のおじいさん、おばあさんもいろいろな方が来られるのを楽しみにしています。前回の芸術祭が終わってすぐにコロナ禍が始まりましたので、この3年間はさまざまな行事が中止になりましたが、私たちはできる限り芸術祭を開催することで、これまで築き上げてきた地元の方々との絆を絶やさないようにしたい。その使命感の一心で、安全・安心な、「行ってよし、来られてよし」の芸術祭の準備を進めているところです。

 穏やかな海に、小さな島がたくさん浮かんでいる瀬戸内海の風景は、世界に類を見ない美しさだと称されます。会場となる島々はそれぞれ歴史が深く、おいしい食べ物があり、島によって全く異なる景色も楽しめます。そして何より、いつ訪れてもゆったりと穏やかな時間が流れています。「Don't think! Feel.」と言いますか、皆さんもリラックスして、島という場所を満喫してほしいです。

 今年は特に、高松の地元の方々に来てほしいという思いもあります。高松は会場のエリアがたくさんありますし、ちょっと足を延ばすだけで非日常感を味わえますので、アート作品によって生まれた、いつもとは違った雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。

 3. 高松港周辺作品

高松港エリアの作品たち~旅のスタート地点からもうアートは始まっている!~
 瀬戸内国際芸術祭のメイン舞台「直島」や「豊島」といった東部の島々へ渡る玄関口になる高松港と、リムジンバス約40分の距離にある高松空港を有する高松市は、アート旅のスタート地点。島々へ旅立つ前に、高松港とその付近の作品もぜひ見ておきたいもの。ここでは、高松港エリアで観られるアート作品をまとめて紹介する。

『Liminal Air -core-』

作:大巻伸嗣/Photo:Yasushi Ichikawa

 高松港にそびえ立つ、鏡面を備えた高さ8メートルのカラフルな2本柱。港や海、建物など周囲の光景を映し見る位置や時間帯、状況に応じてさまざまな表情をみせ、高松の環境をビジュアル化すると同時に、見る者をもはっきりと映し出す。巨大な人工物が、港前で淡々と周囲の環境を投影する姿に、自然の意味を改めて考えさせられる作品。
  作者の大巻伸嗣(おおまきしんじ/日本)は、1971年岐阜出身。展示空間を非日常的な世界に生まれ変わらせ、鑑賞者の身体的な感覚を呼び覚ますダイナミックなインスタレーション作品やパブリックアートを発表している。
 【屋外展示作品】

 

『 銀行家、看護師、探偵、弁護士 』

【キャプション】作:ジュリアン・オピー/(Photo:Akira Takahashi)

  琴電築港駅前の公園に、地元産の石で作られた街を行き交うさまざまな人の彫刻が、道行く人と一緒に歩くように並ぶ。白大理石の「銀行家」、庵治石(あじいし)の「看護師」、石灰岩の「探偵」、黒御影の「弁護士」。刻々と移りゆく通行人を「石」という恒久的な存在に置き換えた作品。
 作者のジュリアン・オピー(イギリス)は、1958年ロンドン出身。イギリスの現代美術界を代表するアーティスト。風景や人物など西欧絵画の主要なテーマを徹底的に簡略化し、限られた要素で表現する作風が支持を集めている。
【屋外展示作品】


 

 

『待つ人/内海さん』

作:本間純/Photo:Kimito Takahashi

 JR高松駅高速バス待合所の外壁に彫られた、よく見ないと分からないほど風景に溶け込んでいる島の人を模した彫刻。待合所では映像作品「内海さん」を上映。作家本人が海に溶け込む衣装を着て、船を漕ぐ姿の録画を観ることができる。誰かと何かを待つような気持になれる作品。
  作者の本間純(日本)は、1967年東京都出身。現代人を取り巻くさまざまな「不可視性」と個人、社会、歴史、自然との関係性を、想像力を媒介にしながら喚起し、視覚芸術として浮上させることをコンセプトにしている。
【屋外展示作品】 *映像作品「内海さん」上映時間 10時~16時30分

 

『Suitcase in a Bottle』

作:ラム・カツィール

 四国村の「砂糖しめ小屋」に設置された大きなボトル。中には旅をイメージさせるスーツケースが。定住が当たり前ではなくなった今、旅行や移動、そして家はどんな意味を持つのか。見る人に疑問を投げかける作品。
 作者のラム・カツィール(イスラエル)は、1969年イスラエル出身。ヨーロッパを中心に数多くのパブリックアートを制作している。
【開館時間】4月16日公開予定、基本は8時30分~18時 【休業日】火曜(祝日の場合は水曜) 【料金】1,600円(作品鑑賞パスポート提示で1,000円) ※デイチケット対象外

 

『Watch Tower』

作:ジョン・クルメリング/Photo:Yasushi Ichikawa

 庵治町「あじ竜王山公園」にある橋型の日時計。よく見ると橋の中央は時計の文字盤で、腕時計を模していることがわかる。タイトルは「見晴台」を指すものだが、同作は「Watch(腕時計)」の「Tower(塔)」でもある。
 作者のジョン・クルメリング(オランダ)は、1951年アムステルダム出身。アーティスト・建築家として国内外で知られている。作品の大半は機能的な建物と建築的な彫刻の境界上に位置する造形美術。
 【開館時間】5月1日~10月30日=7時~6時、11月1日~4月30日=8時~17時 【休業日】火曜日、年末年始 ※火曜日が祝日の場合翌平日 【料金】無料

 

『ウェルカム / ファニーブルー』

作:ヴェロニク・ジュマール/Photo:Kimito Takahashi

 高松空港のロビーにある、2つの作品。天井から吊つり下げられた金色のフィルムが、ロビーに吹き込む風で微かに揺れる『「ウェルカム」』と、ガラスに貼り付けられたフィルムが虹色に光り、窓からの眺めを彩る『「ファニーブルー」』。高松に到着する旅行者を出迎えて、高松から出発する旅行者を見送るかのようにロビーに展示されている。
 作者のヴェロニク・ジュマール(フランス)は、1964年フランス出身。光に関する写真、彫刻、インスタレーション作品で知られており、その多くが展示空間と相互作用する性質を持つ。
【開館時間】6時~22時 【休業日】無休 【料金】無料

 

四国村ミウゼアム エントランス棟「おやねさん」

設計:川添善行

 昨年よりリニューアル工事を進めていた四国村のエントランス棟が、大きくうねるような屋根が特徴の建物に変身。愛称を「おやねさん」とし、 四国村創設者の加藤達雄が、かやぶき屋根の美しさに魅せられ、古民家の移築保存を始めたことにちなんでいる。
 東京大学准教授で設計事務所「空間構想」所属の建築家・川添善行(日本)が設計。1979年神奈川県出身。国内外の賞を多数受賞し、日蘭建築文化協会会長などを務める。
【開館時間】4月16日公開予定、基本は8時30分~18時 【休業日】火曜(祝日の場合は水曜) 【料金】1,600円(作品鑑賞パスポート提示で1,000円) ※デイチケット対象外

 

『装う神さま』

作:本山ひろ子

 人が暮らし、営みを繰り返すと「もののけ」が動物の姿を借りてその場にとどまり、往来の人を見守る。四国村の中に、讃岐の石と鋳造で作られた「生き物」の彫像が5体点在。家と家を結ぶもの、契りの存在、みちしるべとしてひっそりとたたずむ。
  作者の本山ひろ子(日本)は、1975年千葉県出身。動物や植物などをモチーフに、鋳金という工芸技法で作品を作る鋳金家。作品はどこかユーモラスで、シンプルな形の中に柔らかさと力強さを併せ持つ。
【開館時間】4月16日公開予定、基本は8時30分~18時 【休業日】火曜(祝の場合は水曜) 【料金】1,600円(作品鑑賞パスポート提示で1,000円) ※デイチケット対象外

 

『PAPER SEA』

作:Asaki Oda

 高松港の窓口・総合インフォメーションセンターの天井が、不思議な海底世界に変身。目前に広がる瀬戸内海から泳いできたかのように群れる紙の魚が、朝は島へ行く旅人を見送り、夕方は帰ってきた旅人を迎える。
 作者のAsaki Oda(おだあさき/アメリカ)は、東京出身で幼少時代をサンパウロで過ごした。ニューヨークのブロードウェーと東京を周り、演劇、ミュージカル、オペラ、ウインドーディスプレーなど多くのプロジェクトに携わったディスプレーアーティスト。再利用された素材の特性を知り尽くし、それを全く異なるものに変えて、素材に隠された美しさを引き出す作品を多く手掛ける。
 【開館時間】7時~20時 【休業日】無休 【料金】無料

 

 4. 初導入となる「デジタルパスポート」

 今年初の試みとして、作品鑑賞デジタルパスポートが導入された。「瀬戸内国際芸術祭 2022 デジタルパスポートアプリ」(通称=瀬戸芸デジパス)でのみ購入可能で、同芸術祭の会期中、芸術祭の参加作品・施設を各1回鑑賞できる。

サービス・特典も用意
 従来販売されていた紙のパスポート同様、全会期で有効な「3シーズンパスポート(一般=5,000円、16~18歳=3,100円)」と春・夏・秋それぞれの会期のみ有効な「会期限定パスポート(一般=4,200円、16~18歳=2,600円)」の2種類を用意。パスポート提示で15歳以下は鑑賞無料となる。(一部作品・施設を除く)

 他にもパスポート提示で、芸術祭の有料イベント割引 、公式ショップでの割引(回数制限あり)、 高松港と旧中央病院跡地(高松市番町 土曜・日曜のみ利用可)にある専用駐車場利用が無料(回数制限あり) 、香川県・岡山県内の文化施設や観光施設などでの割引特典が受けられる。

 また、各会場をめぐる6航路のフェリー限定で、3日間乗り放題乗船券の販売も予定。 同券を使えば、高松港、宇野港と直島・豊島・女木島・男木島・小豆島間の直行フェリーが利用開始日から3日間、何度でも乗船可能。

 同芸術祭会期中は、既存航路が増便されるだけでなく、通常は直接渡ることができない島同士を結ぶ臨時航路も運行。

 編集後記

取材を通して
 第5回瀬戸内国際芸術祭が始まりました。3年周期で開催される同芸術祭、ウィズコロナの開催は今回が初です。取材を通して、コロナ禍でも芸術の灯を途絶えさせまいとする関係者の方々の思いを感じました。
 今回広域高松圏のニュースを扱うニュースメディアとして、高松港周辺にスポットを当てて特集しました。四国の玄関、高松。高松港から「瀬戸芸の旅」をスタートする方も多いと思います。この特集が旅の一助になることを願います。

 一度訪れたことのある場所もアートの存在によってその雰囲気を変えます。地元に住んでいるからこそ、遠く感じる場所、なかなか訪れない場所もあります。高松に住む方々も、まずは身近な高松の作品を回るとともに、次は少し足を延ばして島々を巡る旅に加わってみてはいかがでしょうか。

海の復権
 瀬戸内国際芸術祭が当初から掲げてきたテーマに「海の復権」があります。この言葉について同芸術祭の総合ディレクターである北川フラムさんによるコラムの言葉を紹介して、この記事を締めくくることといたします。

 かつて、鳥が飛んでいくのを見、木の実が流れつくのを知り、人々は彼方に島があるだろうと、舟をくり抜き、丸太をつないで海に漕ぎ出しました。…私たちの祖先はすべからく船乗りであり、漁師であり、農民であり、大工だったのです。そういう遺伝子を巡れる旅が瀬戸内国際芸術祭の旅になっているのです。これが海の復権だと思うのです。

(北川フラム.瀬戸内国際芸術祭,「海の復権 せとうちのしおり#36」.https://setouchi-artfest.jp/all-news-setouchi-bookmarks/detail-blog-160.html ,参照2022-04-18)

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