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「讃岐おもちゃ美術館」開館 館長に聞く!より深く楽しむためのポイント

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「讃岐おもちゃ美術館」開館 館長に聞く!より深く楽しむためのポイント

 高松市・丸亀町商店街の中心地、大工町エリアに建設された地上8階建ての「丸亀町くるりん駐車場」。その1階に4月25日、「讃岐おもちゃ美術館」がオープンした。全国各地の「おもちゃ美術館」の11番目の姉妹館。近県や県内旅行が注目されるコロナ禍において、香川県内の新たな観光スポットとして期待を集めている。

 この特集では中橋恵美子館長のガイドの下、注目ポイントを紹介する。

 1.コンセプトは「香川生まれを誇れる場所」

 当館のコンセプトは「『ここ香川に生まれて良かった』と思ってもらえる場所」です。香川には素晴らしい伝統工芸品があり、素晴らしい職人さんがたくさんいらっしゃいます。子どもの頃から「本物」に触れてほしいと思い、伝統工芸品を展示するとともに、職人の方々に遊具やおもちゃ作りをしていただきました。

 2.遊具・遊び場にも「職人の仕事」

時とともに姿を変える「漆塗りの滑り台」

 真ん中に置いてあるこの滑り台には漆が塗られています。香川は古くから漆芸(しつげい)が盛んで、今も「香川県漆芸研究所」(高松市番町1)が後継者を育成するため、さまざまな活動を行っています。この滑り台も研究所の方に作っていただきました。

 香川漆芸は「蒟醤(きんま)」「存清(ぞんせい)」「彫漆(ちょうしつ)」の3つ、いわゆる「香川の三技法」を用います。滑り台の側面にはこの3つの技法を用いた模様が付いています。

 滑り台自体も「蒟醤」を用い、時間がたったり、子どもたちが滑ったりすることで少しずつ漆がはがれ、その下の漆が現れるようになっています。


しょうゆだるを使った「桶庵(おっけーあん)」

 「桶庵」に使われているしょうゆだるは小豆島の職人によるものです。中はテーブルがあって茶室みたいになっています。防音性もあって中に入るとホッと一息つけますよ。

【桶庵内部から見上げた様子】

 

本物の盆栽職人が監修した「讃岐かがり手まり」の盆栽

 「讃岐かがり手まり」はもみ殻を核にしてその周りに和紙を巻き、最後に木綿糸を巻いて仕上げます。

 今回盆栽に使った手まりには藍染の淡い色である「甕(かめ)覗(のぞ)き色」の和紙に黄色の糸を巻いて淡い緑色を出しています。磁石が入っていて、アレンジもできるようになっています。

 盆栽は盆栽の一大産地・鬼無町の職人が監修しています。実際の盆栽の枝ぶりに近づけつつも、派手になりすぎないバランスにこだわりました。ここは館内でも有数のフォトスポットだと思います。職人からは「太陽が差し込む東側から撮る時に特にきれいに見えるようにした」と聞いているので、皆さんにもこのアングルからどんどん写真を撮ってほしいですね。


【東側から撮った手まりの盆栽】


ごっこリビング~実は畳に職人の仕事~

 ごっこリビングは木製のキッチンやおもちゃが用意されていて、ままごと遊びができるようになっています。

 実はもう一つ注目してほしいのが居間の畳。香川の伝統工芸の一つである「古式畳」が使われています。縁取りの部分ですが、縫い目がほとんど見えない作りになっています。古くは公家や貴族に重宝され、今ではひな人形などに使われています。

 

ベビーコーナーの土壁~作ったのは泥だんご名人!?~

 ベビーコーナーの壁は観音寺市で採れる粘土質の土を使っています。昔から同市の粘土は良いとされ、重宝されてきました。

 壁を塗ったのは青森の左官職人・白石吉広さん。壁を塗った後、「土が残ったので持って帰っていいですか?」と聞かれたので「はい」と言ったら、後日、何とその土で壁と同じ青海波(せいがいは)模様のミニかまどを作ってくれました。

 それから白石さんは、輝く泥だんごを作ることでネットでも有名です。同館にも泥だんごを作っていただきましたが、光沢を放つくらい滑らかな表面にびっくりしました。

  3.木と香川

随所に使われる香川の木

 遊具やおもちゃには県産の木が多く使われています。入り口正面に入ると出迎えてくれるシンボルツリーはまんのう町産のヒノキ、その周りのラウンドテーブルにも塩江町産の木材が使われています。

【シンボルツリーとラウンドテーブル 周りにはサヌカイトのオルゴールも】

 

 それから館内のあちこちに立っている「ひっつき虫の森」の木は東かがわ市五名で林業を営む木村薫さんが自身の山から切り出してくださったものを使っています。それぞれ木の種類が書かれているので、こちらも見てください。

【木の中の「ひっつき虫」】

 

 また、積木広場のテーブルやステージには小豆島産のオリーブの木が使われています。

木で表す香川

 木のボールが敷き詰められた「まめまめプール」には県産のヒノキが使われています。香川の郷土料理「しょうゆ豆」をかたどったので、この名前にしました。このボールは卵型になっていて、立てたり、コマみたいに回したりして遊ぶこともできます。

 また、香川県のご当地キャラクター「うどん脳」の顔が入ったボールが混じっているので探してみてくださいね。

【うどん脳のボール 「紛れてても子どもたちはすぐに見つけます」(中橋館長)】

 

 また、こちらの積木はさぬき和三盆のお菓子をかたどっています。

 磁石で横のボードに貼り付けられるようになっています。同じ図柄のものを2つずつ用意しているので、そろえて遊ぶことができます。図柄も香川県にちなんだものになっているので、ぜひ見てほしいです。

 それから香川と言えばやはり、うどん。館内にもうどん店ごっこができる「セルフぴっぴや」を用意しています。(「ぴっぴ」は讃岐弁でうどんのこと)

 布でできたうどんや天ぷらをかたどった木のおもちゃ、木製のレジも用意しています。レジにはレシートも用意しています。最初見たときは「どこかの店のかな?」と思ったのですが、何と当館の「おもちゃ学芸員」が作ったオリジナルのものでびっくりしました。手が込んでいるので、ぜひ見てほしいですね。

 4.伝統工芸への思い

 今回当館を立ち上げるに当たって、伝統を残す難しさを感じました。例えば、当館ではワークショップも行うのですが、その中で稲わらを編むワークショップを企画しました。ところが実際にやってみると、編む前後でたくさんわらくずが出る。今まで「編む」工程は何となくイメージがありましたが、わらくずについては考えたこともありませんでした。

 それから、伝統工芸品は作り手が必要なのはもちろんですが、作るための道具も必要です。古式畳についても、作るために専用の針が必要になります。工芸品の数が減れば、当然道具の生産数も減る。それにより、伝統工芸を作るのが難しくなる。そのことについても考えさせられました。

 現在は技術が発達して、たくさんのものを作れるようになりました。伝統工芸品は手間がかかる、効率の悪いものかもしれません。それでも伝統工芸を絶やすまいと作り続けている方々がいる。

 全国にある「おもちゃ美術館」共通の目標として「文化を伝える美術館」であることがあります。洋の東西を問わず、木の文化や昔ながらの遊びなど「文化」や「知恵」を絶やさないためにも、遊びを通じて次世代に語り継いでいきたいです。

 編集後記

 中橋館長に細部のこだわりや思い、知っているとより楽しめるポイントを伺うことができました。「0歳から100歳まで楽しめる場所を目指す」とおっしゃる通り、子どもたちはもちろん、通常博物館に飾られているような職人の仕事に触れて体験できる点は大人にとってもなかなかない機会ではないでしょうか。街の真ん中にありながら、入った瞬間からヒノキの匂いが包むこの空間に足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

関連記事:高松・丸亀町商店街に「讃岐おもちゃ美術館」 香川の伝統通じて「木育」進める https://takamatsu.keizai.biz/headline/200/.

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