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【高松を元気にする100人 VOL.10】後藤匠人さん【屋島から香川を元気にする高校生イベンター】

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【高松を元気にする100人 VOL.10】後藤匠人さん【屋島から香川を元気にする高校生イベンター】

 若きイベンター「たっくん」の挑戦

 香川県高松市を拠点に、若き才能が地域に新たな風を吹き込んでいる。彼の名は後藤匠人、通称「たっくん」。新屋島水族館の名物スタッフとしてその名をはせ、現在は高校生でありながら「瀬戸内振興事業所」の代表を務める異色のイベンターだ。本記事では、彼の幼少期から現在に至るまでの道のり、そして未来への熱い展望を聞いた。
後藤匠人さん

 今回はジャーナリストを志す高松の高校生・ペリー丈勇君も取材に同行。同世代のペリー君の目に後藤さんの姿はどのように映るだろうか。

取材するペリー君

 Part 1: 幼少期の情熱と水族館での原点

インタビュアー(以下、Q): 後藤さんのルーツについてお聞かせください。幼い頃から生き物が好きだったそうですね。

後藤匠人さん(以下、後藤): 生まれも育ちも高松で、小さい頃から生き物が大好きでした。特にイルカやアシカのような哺乳類が好きです。活動の原点となるのは2歳の時に新屋島水族館を訪れ、そこで見たアシカショーに夢中になったことです。ショーではアシカとトレーナーの方のコンビネーションが絶妙で、その姿に僕は夢中になってしまいました。そのショーを見るために毎週末に水族館に通うようになったんです。

アシカの前の後藤さん(後藤さん提供)

Q:その憧れが新屋島水族館での活動につながったのでしょうか?

後藤:そうです。その後、そのアシカもトレーナーも新屋島水族館からいなくなりましたが、僕が小学校1年生の年の冬に転機となる出来事がありました。クリスマスの時期のイルカショーの出演者の1人としてオファーされたのです。

初めてのショー出演時の写真(後藤さん提供)

Q:小学1年生でイルカショー出演とは大抜てきですね。なぜそうなったのでしょう?

後藤:水族館に通い続けるうちに当時やっていたイルカショーのせりふをすっかり覚えてしまって。ある時、ショーに合わせて出演者のせりふをそらんじていたら注目を集めてしまい、それが現在の新屋島水族館館長である櫻井俊之さんの目に留まって出演することになりました。小学2年生~4年生にはイルカショーの主役も務めました。

Q:水族館での経験が今の後藤さんの原点になっているのですね。

後藤:はい、毎週末に欠かさず通いましたし、春休みや夏休みなど長期休業の時もずっと行っていました。水族館は僕にとって人生の原点であり、多くのことを学んだ場所です。音響の仕事に触れたのも小学校1年生の頃でした。次第に裏方として仕事するようになり、新人スタッフの教育も行うようになりました。

Q:スタッフの教育もしていたのですか?

後藤:はい、新屋島水族館のイルカトレーナーは皆、音響からスタートします。というのも、新屋島水族館のイルカショーは音楽に合わせて進行します。イルカやトレーナーの動作によって効果音を入れることもありますし、「イルカがジャンプする曲」も決められているんですよ。イルカショーはトレーナー、お客さん、そしてイルカによってできるもの。動物が絡むので時に思いがけないことも起こります。その時に3者の状態を見て曲の順番を変えたり、飛ばしたりすることもあります。それが見られるようになってイルカの調教・トレーニングの部分の教育に進みます。

新屋島水族館のイルカショープログラム「世直し侍」に出る後藤さん
かつてはイルカショーのプログラムは4演目あり、それぞれの進行を覚えていたという
(後藤さん提供)

 Part 2: 独立への転換期と「瀬戸内振興事業所」の設立

Q:水族館での活動を経て、高校生で「瀬戸内振興事業所」を設立された経緯をお聞かせください。

後藤:水族館での仕事を通じて、もっと地域に貢献できること、得られることはないかと模索していました。2023年の夏ごろに独立を考え始め、2024年3月の中学校卒業のタイミングで水族館スタッフを辞め独立しました。

Q:残ることは考えなかったのですか?

後藤:このまま水族館スタッフとして就職することももちろん考えましたが、独立することでこれまでにない形で水族館と関われる、それが一番の貢献になると思いました。



「世直し侍」と2ショット(後藤さん提供)
取材時、リニューアル工事中の新屋島水族館にも立ち寄った
「見慣れた場所がすっかり更地になりましたね」と寂しそうな後藤さん

Q:設立した「瀬戸内振興事業所」はどのような事業をしているのでしょうか?

後藤:移動水族館の運営、イベントの企画や運営、香川県内の高校生・大学生で構成する劇団「せとカラ」の運営をしています。

昨年6月にうみまち商店街で出展した移動水族館
漁業の網にかかったヒトデなどと触れ合える(後藤さん提供)

香川県内の高校生や大学生とともに作り上げる劇団「せとカラ」(後藤さん提供)

Q:移動水族館はまだこれまでの経歴と関わりを感じますが、イベンターにはどうしてなろうと思ったのですか?

後藤:当初は移動水族館をメインに考えていました。むしろ事業としてそれ以外のイメージを持っていませんでした。そんな中、「移動水族館でマルシェに出店しないか」という声がかかって…。正直言うと、それまでマルシェのことをあまり知らなかったし、「人が集まるのだろうか」と懐疑的でもありました。

 いざ行ってみるとそのマルシェはおしゃれで雰囲気も良くて、老若男女、多くの方が来ていました。それを見た時、イベントに大きな可能性を感じました。地域活性化のためには、より多くの人が集まるイベントが必要だと思うようになりました。

Q:そして「瀬戸内振興事業所」を設立したのですね。これまでに多くのイベントを企画・主催してきたそうですが、特に印象に残っていることはありますか?

後藤:初めてイベントを主催し、マルシェにも挑戦した経験は大きかったです。昨年3月に複数のイベントが重なり、マルシェにも出店しました。瀬戸での演劇や移動水族館など、過去の経験が今の活動につながっています。

Q:地域活性化への強い思いを感じます。

後藤:地域への恩返しとして、イベントを通して地域を盛り上げたいという気持ちが強いです。SNSに頼らず、直接会って関係を深めることで、地域とのつながりを大切にしています。

Q:後藤さんの活動の原動力は何なのでしょうか。

後藤:若者が地元・香川県で挑戦する機会を創出したいです。若者がやりたいことを諦めてしまう現状を変えたい。イベント開催などを通じて集まった若者に、挑戦できる場を提供したいと考えています。

 Part 3: イベントで屋島や地元を元気に!~主催イベント「やしまつり」について~

Q:昨年12月と今年7月にイベント「やしまつり」を主催しました。「やしまつり」はなぜ開こうと思ったのでしょうか?

後藤:新屋島水族館はリニューアルのため今年4月から2年間の休館となりました。僕は水族館がない期間、子どもたちが屋島山上に足を運ぶ機会が失われないかと懸念しています。地元の子どもたちや若い人たちが屋島を訪れるきっかけになればと「やしまつり」を企画しました。

大勢でにぎわった今年7月の「やしまつり」


後藤さんも設営や来場者への対応などで駆け回った

 「やしまつり」を通して目指しているのは屋島山上への足を途切れさせないこと。リニューアルオープンした水族館は、始めは皆行きますが、その後、客足が減って「一発屋」みたいになってしまう施設も多いです。水族館だけでなく土産店の店員さんなど、屋島山上の方々には小さい頃から世話になってきました。イベントを通して屋島山上を盛り上げることが僕にできる恩返しだと考えています。

 Part 4: 今後の展望~子どもたちが動物と触れ合う施設を~

Q:今後の展望についてお聞かせください。

後藤:生き物との触れ合いについて、これまでは移動形式でしたが実は現在、香川県内にヤギと触れ合える常設施設を作ろうと考えています。

Q:やはり後藤さんにとって、生き物は切っても切れない関係ですね。

後藤:はい、子どもたちには外に出て動物と触れ合う機会を作ってあげたいんです。生き物を大事にすることは自分や他者を大事にする心も身に付けることにつながります。生き物のありのままの姿を見ることができ、イベントも開催できるような施設にしたいです。

後藤さんとヤギのハルちゃん(後藤さん提供)

 Part 5:ペリー丈勇君のインタビュー~同世代から見る後藤さん~

Q:今回同行してくれたペリー君にも質問してもらいましょう。ペリー君、何か聞きたいことはありますか?

ペリー丈勇君(以下、ペリー):取材前にブログを読み、今日話した時にも言葉の丁寧さに驚きました。どうやってその話し方を身に付けたのですか。

後藤:ありがとうございます。言葉についても水族館にいた時の影響が大きいですね。何せ周りは大人ばかり。社会人として働く大人の姿や大人同士のやり取りをたくさん目にする中で身に付いたのだと思います。

ペリー:今、生き物以外に興味のあるもの、はまっていることはありますか?

後藤:プラネタリウムが昔から非常に好きで、常設施設にもプラネタリウムを作りたいと思っています。飲食店の食べ歩きも最近するようになって好きになりましたし、イベントのフライヤーを自分で作るようになってからデザインも好きになりました。

ペリー:チャレンジする原動力は何ですか?

後藤:「人はいつかは死ぬ」ことでしょうか。僕を含め大半の人は100年後には恐らくこの世にいないでしょう。そう思ったら失敗したらどうしようと尻込みする気持ちもなくなりました。限りある人生、リスクを恐れずに将来を見据えて積極的に投資し、やりたいことを実現していきます。

 後は香川を自分たちと同じ若い世代で盛り上げたいと考えています。やりたいことがあっても地元でできないから若者がどんどん都心部に出てしまったり、チャレンジしたいと思う企業があっても採算が合わないから地方から撤退してしまったりということがしばしば起きます。地方での挑戦を支援・出資できるくらい、まずは自分が稼いで地方の若い力も伸ばしていきたいです。

 編集後記

 幼少期からの水族館への情熱を原動力に、地域活性化という大きな目標に向かって挑戦し続ける後藤さん。彼の行動力と地域への深い愛情は、香川県の未来を明るく照らす希望となるでしょう。今年9月には起業や地域活動にチャレンジする中・四国の高校生を対象にしたコミュニティー「NLB(Next Leaders Buddy)」も発足。今後の彼の活躍に、ますます期待が高まります。

 初対面ながらすっかり意気投合した様子で後藤さんと打ち解けた様子で話していたペリー君。今回の経験が彼の今後にも良い影響を与えるものになればと願って筆を置きます。

 高松経済新聞では今後も、さまざまな活動で香川・高松を元気にする方々を紹介していきます。次回の配信もお楽しみに。
 

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