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高松市美術館で特別展「動く!展」 学芸員と巡る現代アートの注目作

高松市美術館で特別展「動く!展」 学芸員と巡る現代アートの注目作

 高松市美術館(高松市紺屋町)で現在、特別展「動く!展 ―光と音と運動の芸術」が開催されている。

 同館は1988(昭和63)年の開館当初から「戦後日本の現代美術」を収集方針の一つに掲げてきた。本展ではコレクションを軸に、日本の現代アートが旧来の枠組みを越え、光や音、映像、さらには観客の参加といった多様な「動く」表現へと展開していった歴史を振り返る。
本記事では、同館学芸員の石田智子さんの案内の下、展示される注目作品を見ていく。
(作品について記載のないものは全て高松市美術館蔵)

1.「動く」をキーワードに振り返る現代アート

💬 学芸員・石田智子さんの解説

戦後の日本では、前衛芸術家たちが新しいメディアを取り入れ、自らが「動く」パフォーマンスなどで表現の幅を広げていきました。今回は当館のコレクションの中から、物理的に動く作品だけでなく、光の点滅や音の波及、鑑賞者が動くことで見え方が変わるなど、多様な「動く」作品を集めました。

2.注目の展示作品

田中敦子「電気服」 1956/86(昭和31/61)年 ©Kanayama Akira and Tanaka Atsuko Association

 1956(昭和31)年/1986(昭和61)年制作の「電気服」です。カラフルなアクリルラッカーで色づけられた約180個の電球と管球が、ランダムに点滅する作品で、サイズは縦165センチ、横80センチ、奥行き80センチあります。1956(昭和31)年に初出、1986(昭和61)年に仏ポンピドゥーセンターで開催の「前衛芸術の日本1910-1970」展に出品のため再制作、その後1988(昭和63)年に当館へ収蔵されました。

 2010(平成22)年の展示「モリエンナーレ/まねぶ美術史」では、美術家の森村泰昌さんが田中さんへのオマージュとして自らがこの「電気服」を着る作品を出品し、点灯する電球の熱さに耐えながら「熱があるのは生きているからである/死なないで、電気服」という言葉を残しました。NHK Eテレの番組「びじゅチューン!」でも2019年、この作品を題材にしたアニメーションが放映されました。会期中、当館のエントランスホールと丸亀町商店街にある「ブランチギャラリー」で見ることができます。

田中敦子「電気服」高松市美術館蔵

▲ 本展では、30分に1度、照明が点灯するように設定している。

ヨシダミノル「Just CURVE'67 Cosmoplastic」1967(昭和42)年、 「シンセサイザー・ジャケット #03 #04」1995(平成7)年、2000(平成12)年(#01の制作は1974(昭和49)年)(個人蔵)

 光や動きを取り入れた故ヨシダミノルさんの作品です。1967(昭和42)年制作の『Just CURVE'67 Cosmoplastic』は、波打つように加工された円盤状の蛍光色アクリル板がブラックライトで照らされて光る作品です。人が近づくとセンサーが感知してアクリル板が回り始め、背後のマッサージ機のような器具によって音を立てて振動します。当時最先端の表現としてアートシーンを驚かせました。

ヨシダミノル「Just CURVE'67 Cosmoplastic」展示風景

▲ 作品の向かって右側にセンサーがあり、前を通るとモーターが音を立てて動き、プロペラが回る

 「シンセサイザー・ジャケット」は、蛍光アクリル板で作られた透明のよろいのようなパーツにシンセサイザーが取り付けられた作品で、1970(昭和45)年に米国へ渡ったヨシダさんがニューヨークで身にまといパフォーマンスを行いました。(展示されている#03、#04は1995年、2000年にそれぞれ再制作されたもので、どちらもパフォーマンスで使用されました。)会場ではニューヨークでヨシダさんが演奏した時の模様を記録した映像も上映しています。

小沢剛「なすび画廊ー昭和40年会」1994(平成6)年

 もともとは1993(平成5)年に老舗貸画廊『なびす画廊』の前の路上で始まった、牛乳箱を用いた世界最小の移動式ギャラリーです。牛乳箱の内側を白く塗って画廊空間(ホワイトキューブ)に見立て、老舗画廊をもじって命名するなど、ユーモアと批判精神で価値の転換を示しました。

本作は、小沢剛さん、会田誠さん、大岩オスカールさん、パルコキノシタさん、松蔭浩之さんらが、全員昭和40年生まれであることを理由に結成した「昭和40年会」の共同展示となっています。

小沢剛「なすび画廊ー昭和40年会」展示風景

▲ 《なすび画廊 ―オスカール大岩幸男[ 1月17日午前5 時46分]》1995(平成7)年

下道基行「津波石」2015(平成27)年-

 作者が2014(平成26)年から宮古・八重山諸島を旅し、津波によって海底から陸地に漂着した巨大な岩を探して定点撮影しました。一見すると静止画のように見えますが、時折現れる鳥や人によって時間が流れていることが分かり、穏やかな波の向こうにある自然の猛威を感じさせます。

下道基行「津波石」映像作品展示風景

▲ 人が現れたり、鳥が飛んだり、画面の中に小さな動きが見られる

 2018(平成30)年に当館で本格的に紹介された後、2019年のベネチア・ビエンナーレなどでも展示されました。

🏛️ ここからは、高松市美術館の「エントランス」に展示されている2作品を紹介!
(※以下の2作品は会期外でも常設展示され、誰でも楽しむことができます)

飯川雄大「0人もしくは1人以上の観客に向けて」 2024年エントランス展示

天井から吊られたキャリーバッグ。実はこれも作品の一つです。誰かが作品に働きかけることで何かが起こる仕組みですが、目撃者にはなぜ起きているのか分からないようになっています。作品から伝えられる情報をあえて制限し、観客自身が気づき、想像を巡らせることを重視しています。

飯川雄大「0人もしくは1人以上の観客に向けて」(写真提供=高松市美術館)

写真提供=高松市美術館

中2階に設置されたキャリーバッグを上下させるハンドル

写真提供=高松市美術館

▲中2階に作品の一部であるハンドルが設置されている。「来館したらぜひ回していただきたい」(石田さん)

鴻池朋子「Wolf Bench -Takamatsu」2026年 エントランス展示

このベンチは大阪・関西万博のヘルスケアパビリオン周辺に設置された座れるベンチ「Wolf Bench」と同型のもので、当館のためにペインティングが施されました。。アートを必要とする場所へ作品の方から出掛けてゆく『サクヤオオカミ プロジェクト』の一環として、人がアートに持続的に関われるようにという構想から生み出されました。広く親しまれるように美術館のエントランスホールに常設展示するほか、定期的に市内各地の施設などへ出張展示されることも想定しています。当作品と「0人もしくは1人以上の観客に向けて」は会期外でも当館エントランスに展示され、楽しむことができます。

鴻池朋子「Wolf Bench -Takamatsu」高松市美術館エントランス

🖋️ 編集後記

今回の取材を通して、物理的に動く作品から、鑑賞者の感覚や想像力を動かす作品まで、「動く」という言葉が持つ意味の広さを感じた。特に、部品の製造中止という保存の課題を抱えながらも輝き続ける「電気服」や、美術館を飛び出して出張展示される「Wolf Bench」など、作品そのものが時間や場所を越えて生きているような躍動感があった。ぜひ会場に足を運び、作品が発するエネルギーや、アートがもたらす「衝動」を直接体感してほしい。

■ 特別展「動く!展 ―光と音と運動の芸術」開催概要

会場:高松市美術館(香川県高松市紺屋町10-4)
ブランチギャラリー会場:丸亀町商店街内(「電気服」展示)
詳細・最新情報:高松市美術館 公式ホームページ