企画展「失った命とともに生きている」が現在、高松の複合施設TAKAMATSU JAM4.5(高松市高松町)内の「1つだけ美術館 香川館」で開催されている。
同館は、4畳半の1部屋を展示スペースとして使う。今回は「私たちは生きています。多くのかけがえのないものを失いながら生きています。それでも今日も生きています」とメッセージを掲げ、死別やさまざまな喪失、日々の生きづらさを抱えながらも生きる人々に寄り添い、自身の思いや他者の気配を感じ取りながら静かに対話できる場を目指す。
会場内にトレーシングペーパーでできた帳面を置き、鑑賞者は鉛筆で感じたことや自身の記憶、思いを自由に書き足す。ページがトレーシングペーパーのため、最初に企画メンバーが書いた言葉と、来場者が書き足した言葉が重なり合っていく構成となっている。
企画・制作は、同館を運営するリツトデザイン(東京都杉並区)代表のよしおかりつこさんをはじめ、死産による悲しみや孤独の経験から地域で対話の場を開くNPO法人「グリーフサポートてらすば」代表理事の秋山美智子さん、家族で小児がんの長女を支えた経験からアートや対話の表現活動を行う武川咲子さん、東日本大震災で姉を亡くした経験を踏まえ後悔しない生き方や笑いの大切さを伝える作業療法士の藤田元さん、地域で食支援や傾聴を行うNPO法人「然るべき人生をつなぐ会」所属で上智大学グリーフケア研究所認定臨床傾聴士の溝口英三子さん。グリーフケア(大切な人を失った悲しみに寄り添う取り組み)や福祉、表現活動などに取り組む5人が参加する。
展示を作り上げていく過程について、武川さんは「私たち5人はそれぞれ大切な人を亡くした経験を持っている。5人で対話やインタビューをする中で、思いが重なる部分があり、よしおかさんの提案でトレーシングペーパーで共有する形を取ることにした」と振り返る。武川さんは2024年に同所で、長女・紗音(さやね)さんをモデルに執筆した絵本を題材にした「今、できることがある。」展を開いたが、展示開始の直前に紗音さんは19年の生涯を閉じた。今回の準備の中で紗音さんを亡くしたことへの受け止め方が変わったことを感じたという。「前回の展示は終えるまで泣くことがなく『紗音の死を受け入れられたかな』と思っていたが、今回の展示は準備の中で涙が流れて『やっと泣けるようになった』と感じた。前回は長女の死をまだ受け入れられていないだけだった。他の4人も展示を企画する中でそれぞれに涙する場面があった。参加メンバーから自分の兄を亡くして以来、残った写真を見ることもできなかったが、この展示を通してもう一度写真を見ることができるようになったという話も聞いた」と話す。
展示について武川さんは「自分が初めに書いたものと後から鑑賞者が書き足したものの境目がなくなって、どれが自分の書いたものだったか分からなくなった。みんな、胸に秘めて周りには言えない思いがある。この場所は暑い夏の雰囲気とは違った静かさをたたえている。胸に抱えた思いを下ろし、静かな雰囲気の中で心を落ち着かせる場になれば」と話す。
開館時間は10時30分~17時。火曜休館。8月31日まで。